東京下町殺人暮色 宮部みゆき


2009.3.29  少年探偵的展開 【東京下町殺人暮色】

                     
■ヒトコト感想
冒頭から衝撃の場面だった。荒川に流れるバラバラ死体。それを見つける親子。思わずゾクリとしてしまった。一体どれほど強烈な猟奇的殺人が行われたのか。冒頭の描写だけを読むと、いやがおうでも想像力をフルに働かせ、考えてしまう。しかし、物語は事件の深刻さから反比例するように、なんだかほのぼのとしているように感じられた。13歳の少年が父親である刑事の力を使って事件を解決していく。なんだか、少年探偵的な流れにしては中途半端だし、冒険ものという雰囲気も感じなかった。小生意気な子供がでしゃばっているようにしか感じられなかった。事件の真相が明らかになっても、衝撃は少ない。謎の解き手が複数いたのであっけなく感じたのかもしれない。

■ストーリー

13歳の八木沢順が、刑事である父の道雄と生活を始めたのは、ウォーターフロントとして注目を集めている、隅田川と荒川にはさまれた東京の下町だった。そのころ町内では、“ある家で人殺しがあった”という噂で持ち切りだった。はたして荒川でバラバラ死体の一部が発見されて…。

■感想
安定したミステリーといえるのだろう。定番を抑えているというか、謎もしっかりしている。冒頭の衝撃的場面とそれに繋がる様々な手がかり。一体どういった理由で誰が何のために、そればかりを頭に思い浮かべながら読んでいたのだが…。それは前半だけで、途中から少しダレてきてしまった。まず、探偵役としての13歳の少年順。家政婦のハナ。そして、刑事である順の父親。なんだかあらゆるパターンの探偵小説のおいしいところを詰め込んだように感じた。そして、すべてが中途半端にも感じられた。

探偵役として登場するこの三人。一体だれがメインなのだろうか。流れ的には少年なのだろうが、それでもハナが鋭い推理を展開したり、順の父親がすべてを見通しているように先へ先へと行動したり。三パターンの展開は面白さというよりも、あまりに都合が良すぎるのではないかと思えてきた。細かな謎や伏線はあちこちにちりばめられている。それらを拾い集めながら、ミステリーの醍醐味を楽しむのも良いだろう。安定した王道ミステリーなのは確かなので、その点は安心して楽しむことができるのだろう。

強烈なインパクトを残した冒頭。そして、中だるみした中盤。少年の中途半端なでしゃばりぶりにちょっとイラっときた後半。事件の結末もなんだか思っていたほどの謎もなく、伏線をたどっていけば容易に予想できる範囲の展開だった。この手の少年が大活躍する作品は、読んでいるとどうしても子供向けに思えてしまう。特に少年の短絡的な思考原理にちょっと違和感を感じたり、周りの大人たちの少年に対する放任主義っぷり。普通の少年がでしゃばるにはやりすぎているのではないかと終始思えてしょうがなかった。

ミステリーとしては普通なのだが、少年探偵的なものが苦手な人はつらいかもしれない。



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