東京島 桐野夏生


2009.11.19  男の中におばさんが一人 【東京島】

                     
■ヒトコト感想
トウキョウ島と名づけられた無人島で生活する32人の漂流者たち。その中で一人女として生きる清子。島でただ一人の女を取りあう男たち。イメージするのは逆ハーレムのような状況だろうか。しかし、その想像力を阻害するのは、清子の年齢だ。いくら無人島とはいえ、20代の男が50前のおばさんに欲情するだろうか。生きるか死ぬかの状況であれば、まず生きることを優先し、性欲など湧いてこないのではないだろうか。物語は清子を中心に変化していく。無人島での壮絶な暮らし。紙もなければ、鏡もない。文化的生活とは程遠い中、不自然な秩序ができあがり、トウキョウ島は一見平温な暮らしが続くことになる。とにかく、清子を奪い合うというのが、どうしてもイメージできなかった。

■ストーリー

32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か、楽園か?いつか脱出できるのか―。食欲と性欲と感情を剥き出しに、生にすがりつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読者の手を止めさせない傑作長篇誕生。

■感想
無人島生活というと、悠々自適なイメージがあるが、それはとんでもないことだ。生きるために貴重な蛋白源として、蛇やトカゲを食べる生活。服が傷むからと、服を着ない生活を続ける人々。助けがくる見込みのないなか、何を希望に、何を楽しみに生きていくのか。無人島生活において、自然発生的に出来上がるコミュニティの怖さと、リーダーの存在の重要性。そして、一人だけ異質な”女”という性別を持った清子。無人島生活の想像はできないが、助けの来ない状況では、人は本作のように正常な判断をなくし、モラルや倫理なども吹っ飛んでしまうのだろう。

本作で強烈なのは、かすかなモラルがあるかと思えば、全てを吹き飛ばす、生きるための行動にでる部分だ。島から脱出するため筏に乗る場面であったり、ボートを奪い合ったり。何を持つものが一番力が強いのか。単純に暴力的な強さはたいした意味をもたない。個人の力など、集団の力には敵うはずがないからだ。本作では、無人島生活で陥りがちな方向性がいくつか示されている。一人孤独に世捨て人になるか、強いものに寄り添うのか、小集団になるのか、宗教に走るのか。どのパターンであっても、決して正常であるようには思えなかった。

清子という存在が、あるときはまるで神のように、またあるときは、和を乱す異物のように扱われている。清子が20代の美しい女であれば、まだわかる。本作の清子は40を越えたおばさんなのだ。そんな清子に欲情する20代の男たちの気持ちは最後までわからなかった。その環境で希少価値があるものは、それだけで魅力的に見えてくるのだろうか。そのことに気付きながら、したたかに振舞う清子。結局女は強く、男は弱い。生存競争になれば、最後に勝つのは清子のような女なのだろう。ラストの展開には少し納得いかなかったが、清子のすさまじさを印象付ける結果となった。

女は弱くはない。いざというとき、一番力強いのは女だ。



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