東京DOLL 石田衣良


2010.11.29  無機質なコンクリートジャングル 【東京DOLL】

                     
■ヒトコト感想
天才ゲームクリエイターであるMG周辺で巻き起こる恋愛と企業買収の物語。本作を読んで感じたのは、無機質な都会の風景だ。大ヒットゲームを作り金に不自由しない生活を送るMGと、新しいゲームのモデルとなった少女ヨリ。二人が生活する東京は、二人の目を通すとコンクリートに囲まれた牢獄のように感じてしまった。高価なバッグや靴を買い、当たり前のように豪華な食事をする。それらに満たされた思いを感じないMGは、現代の成功者の負の部分のような気がした。ヨリとの恋愛とはいえない関係も、成功者だからこそ感じる不満のように思えた。MGにとって何が一番なのか、会社なのか、ゲームなのか女なのか。それらは結局最後まで読んでも響いてこなかった。

■ストーリー

マスター・オブ・ゲーム=MGと呼ばれる天才ゲームソフト制作者・相良は、新作のモデルに翼のタトゥを背負った少女・ヨリを選ぶ。映像モデルとして完璧な「人形」ぶりを発揮するヨリに、MGの孤独は癒されていく。だが、彼女には愛する男の不幸が見えるという異能があった。

■感想
ゲーム制作の天才であるMG。まず最初に感じたのは、人間的な欲望がないのではないかということだった。それが、ヨリという少女に出会うことによって惹かれていき、ヨリの虜になる。婚約者がある身でありながら、ヨリへの思いを忘れることができないMG。自分を守るタイプの成功者ではないが、かといって攻めにでていくタイプでもない。このMGというキャラクターにどの程度魅力を感じることができるか。ただ一人で原案を考える苦悩というのは、もしかしたら作者の作品を生み出す苦悩を投影しているのかもしれない。その部分はものすごく共感できた。

魅力的な少女ヨリには特殊な能力がある。好きになった男の悲しい未来が見えるということだ。この能力によってMGの会社が巨大企業に騙され取り込まれようとしているとわかる。ゲーム製作者と販売メーカーの軋轢や関係性などほとんど知らなかったが、本作のパターンはあるような気がした。個人の企画能力いかんによってゲームの売上げが大きく変わるのなら、人ごと買収するというのもあるのだろう。大企業のあこぎなやり方と、才能がある人とない人の身の振り方の違い。何が悪くて何が良いとは一概に言えないが、企業買収のリアルな部分を垣間見たような気がした。

流れ的にラストはヨリの予言どおりになるような気がしたが…。今までの作者の恋愛小説は、最後に救いようのない終わり方や、悲しい別れ、もしくわ不幸が起こるというのが多かった。本作もそのパターンかと思われたが、ちょっと意外な方向へと進んでいった。MGが自分のパートナーとして誰を選ぶかというのはあったが、誰もが明るい未来が見えている気がしたので、すっきりと終わったような印象だ。自分としてはもう少し企業買収のゴタゴタがあるのかと思ったが、あっさりと引き下がる巨大企業や、後日談が描かれていないので、すんなりと終わった印象がある。

東京という場所と、成功者が金を自由に使うという日常は、どうも生活観を感じない。



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