とり残されて 宮部みゆき


2009.4.11  不思議か、そうでないか 【とり残されて】

                     
■ヒトコト感想
不思議な出来事をテーマとした6つの短編。最初はネタとして不思議な出来事を扱うとは思っていなかったので、いったいどのようにしてこのトリックを実行したのか?という思いで読んでいた。結局トリックなど何も存在せず、ただ摩訶不思議な出来事として終わっている。単純にそれだけなら、なんだそうかで終わるのだが、本作はそれだけでは終わっていない。不思議な超常現象だとしても、その理由が気になってくるのだ。不思議なことが起きるには、それなりに理由がある。のべつまくなし起きるわけではない。表題の「とり残されて」や「たった一人」などは、ネタとして不思議な出来事を扱うとわかっていても、興味が薄れることはない。過程として不思議な出来事を使ってはいるが、その原因はしっかりしたものが存在する。読み終わってから、なんだぁという思いがないのはその証拠だろう。

■ストーリー

勤め先の小学校で、ヒロインは「あそぼ」とささやく子供の幻に出会う。そんな折、校内プールに女性の死体が…。その謎にせまる表題作ほか、夢の「場所」捜しから始まる内面の旅を描いて名作の聞こえ高い「たった一人」など六篇を収録。

■感想
一見すると、何か大きなトリックが隠された事件のように感じる冒頭。不思議だが、裏にはしっかりとした現実的な事実が隠されていると思わせる流れ。超常現象的な匂いを漂わせながらも、最後にはまっとうな事実を突きつける。そんな展開を予想していた。当然、頭の中ではどのようなトリックかと勝手に予想していく。しかし、物語が進めば進むほど、トリックとして成立しなくなる。一体これはどんなトリックを使ったのか、こんな不思議なことをどうやって演出したのかと終始頭の中から離れない。結果としては不思議な出来事として結論づけている。しかし、これが悪いわけではない。もっともらしいこじ付けをして中途半端に現実的にするよりは、ファンタジーにあふれるほうが全然納得できるのだろう。

特に印象的なのは表題の「とり残されて」と「たった一人」だ。一つの事件から、自分の心の奥底で考えていることの影響について考える。ネタ的にはこじつけ感は強いかもしれない。ただ、冒頭でプールに死体が存在し、その場面を同時に夢で見たなんてことは、興味を惹かれずにはいられない。同時期に二人の人物が、まるで正夢のように事件の一部を夢で見る。夢が現実と一致していれば、まだ可能性として考えられるが、二十年前の状態で夢を見る。こんなことは物理的にありえない。いったいどのようなトリックが…。三文小説ならば、強引にトリックをこじつけるのだろう。ある意味潔いのかもしれないが、あっさりと超常現象として結論づけている。

「たった一人」に関しては最後の最後に超常現象なのか、それとも現実的解決なのか、答えをぼやかしている。途中までは今までどおり不思議な出来事として処理しようとしている。しかし、結末では、すべてが仕組まれたことであり、超常現象と思わせることで、事態を解決に導いている。はっきりとした答えはでてこない。しかし、この結末によって、読者はもしかしたら…。と頭の中には全ての物語をしっかりと頭の中で反芻し、トリックに矛盾がないかを考えてしまう。こうやって、最後の最後にガツンとやられると、とんでもなく大きな印象として残ってしまう。作品全体の印象をよくする効果もある。

不思議な出来事をテーマとした作品だけに、毛嫌いする人もいるかもしれない。しかし、ラストの「たった一人」はそんな人にも読む価値のある作品だ。



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