取引 真保祐一


2010.4.10  フィリピンのアングラな世界 【取引】

                     
■ヒトコト感想
ことの発端は談合事件の調査ということになっている。公取の調査員である伊田が談合関係での複雑怪奇な談合システムを暴くのかと思いきや、物語はフィリピンで発生した誘拐事件へとシフトしていく。タイトルと最初の雰囲気からして、机上での知能戦が繰り広げられるかと思った。しかし、流れは予想外にアクション要素の強いものとなっている。フィリピンでの激しい攻防。ただの営利誘拐ではなく、子供の売買にまで関わるディープな世界が描かれている。まるでアクション映画を見ているような激しい場面展開と、二転三転する真犯人。冒頭で受けた印象からずいぶんとかけ離れたものになってはいるが、これはこれで面白い。フィリピンの当時の社会情勢と、壮絶な世界を感じることができる作品だ。

■ストーリー

公正取引委員会の審査官伊田は汚職の嫌疑をかけられた。何者かの策略に嵌(はま)り事件に巻き込まれたのだ。ある所からの誘いによって彼はフィリピンへ行くことになる……。ODA(政府開発援助)プロジェクトに関する談合事件をマニラで調査する伊田の身に危険が迫る!

■感想
公取内部で汚職容疑をかけられ、事件に巻き込まれる伊田。それらがすべて仕組まれたものであり、特殊任務にあたるためのカモフラージュというのはスパイ物としてはある意味定番かもしれない。そんな冒頭から公取のエージェントとして談合調査をするためにフィリピンへとやってくる伊田。フィリピンでは鍵になる人物が伊田と同級生であり、何かしら深い関わりがありそうな予感はしていた。企業の営利主義と役人の事なかれ主義。さらには日本のODAの問題でも描かれるかと思ったが、物語は意外にもアクションメインとなっている。

フィリピンで発生したある営利誘拐事件。それに巻き込まれる形となった伊田が、公取の調査員という姿を隠しながら、同級生である遠山を手助けしようとする。物語は一気に加速し、フィリピンのアングラ系へとうつっていく。このあたりは非常にショッキングで、フィリピンという国の現状と、そこにはびこる信じられないようなビジネスが描かれている。営利誘拐では警察があてにならないため、ほとんどが身代金を払い解放されるだとか、平然と賄賂がまかり通る世界だとか。フィリピンという国のすさまじさが描かれている。

さらには、後半ではただの公取調査員であるはずの伊田が激しいアクションを繰り返す。読んでいる間、これではまるでブルース・ウィルスではないかと思ってしまった。それほどボロボロになりながら、何かをやり遂げようとしている。そして、ラストでは思いもよらない人物が黒幕として登場する。かなり複雑で誰も想像しないといえるだろう。しかし、複雑すぎて、読者を驚かせるために無理矢理こじつけたように感じなくもない。確かに強烈な印象を残すが、ラストの終わり方がなんとなく後味が悪かった。

タイトルと冒頭の雰囲気とはまるで違う部分がメインとなっている。



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