THE MASK CLUB 村上龍


2008.8.30  死者がナレーター 【THE MASK CLUB】

                     
■ヒトコト感想
相変わらずのSMの世界。もうお腹一杯だと思いながらもまた読んでしまう。立て続けに作者の作品を読むと、結局は立て続けにSM系の作品を読むということになる。SMと精神異常者がメインとなる本作。主観的な視点では、読者に対してのアピール度が少ないと思ったのか、死者の視点で客観的に語られている。しかしながら、客観的といいながら何でもありの死者の目線なので、女の細胞の中に入り込み主観的な部分を客観的に語っている。このあたりは混乱しがちだが、読んでみると意外にすんなりと入り込むことができる。最初の死者の目線に対する小難しい説明や精神世界の部分はちょっと退屈に感じたが、女たちの人生をのぞき見るような後半の流れは良かった。

■ストーリー

恋人を追いマンションに忍び込んだ書店員は、何者かに惨殺され「死者」として存在した。その部屋では、決まった七人の女たちがSMレスビアンパーティを開き、必ずひとりの女だけがオルガスムを迎えていた。この奇妙な信頼関係はどこからくるのか? 彼女たちの失われた過去から現れる壮絶な真実を描ききった驚きの長編小説!

■感想
死者としての視点。それを霊魂として語るのではなく、意識だけの存在、もしくは何か特殊な目に見えないものとしての存在を描いている。このあたりがはっきり言えば頭にイメージできない部分なので、ここで拒否反応を示してしまうと、その後を楽しむことはできない。目に見えず細胞さえも通り抜け、女たちの内部に入り込む。そうすることにより、死者の目から見た、女たちの精神世界を描くことができるのだろう。やりたいことはわかるのだが、それをすんなりと受け入れ、頭の中でイメージするのはかなり辛かったというのが正直なところだ。

ストーリー的には女たちの人生を客観的でありながらも、主観を含めて読むことができるというところだろうか。作者にとってはお決まりの世界観なので、特別驚くことはない。相変わらずSMに卒倒した女が、金に不自由しない男と絡んだり、精神的に満たされない女たちと出会っていく。その過程の面白さもあるが、衝撃はない。マスクをかぶることにどのような意味があるのか、子供時代フリースクールに通っていた女たちが出会うことに、どのような意味を含めていたのか。異質なものを異質に描くのも技術がいるのだとわかった。

本作では死者の視点で語られながらも、死者に対してはそれほど詳しい説明はなされていない。死者自身が自分のことを忘れている場合もあり、物質としてではなく、なんとなくだが、ただの傍観者というような印象しかなかった。女たちの世界に入り込む異質なものとして、最後は語られており、名前を呼ぶことでその存在を認識させ消滅させる。結局男たちの存在とはなんだったのだろうか。本作においてはただのナレーター扱いなのだろうか。新しい実験的な作品のように見えるのだが、やってることは今までとほとんど変わらないというのが大方の印象だ。

作者のこの手の作品に慣れているだけに、大きなインパクトも衝撃もなかった。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp