テニスボーイの憂鬱 村上龍


2009.6.3  作者の実体験だろうか 【テニスボーイの憂鬱】

                     
■ヒトコト感想
バブルの時代や昔ながらのリッチな青年実業家の香りがする作品。仕事も順調で家族にも恵まれテニスを楽しむ青年実業家。そこに愛人が加わり、愛人との生活を楽しむ。もともと本作が出版された時代が時代だけに、今読めば古臭く感じるのは当然のことだろう。それにしても、典型的な誰もがイメージするリッチな青年実業家だ。金に対しての悩みは皆無で、悩みがあるとすれば、それは女に対してのことだけだ。テニスに汗を流し、CMモデルと付き合う。まるでセーターを肩に掛け、ブランド物のセカンドバッグをもつディレクターのようなイメージだ。古臭さを楽しみながら、バブリーな雰囲気を感じ、昔はこうだったのだなぁという思いに浸るのもいいかもしれない。

■ストーリー

地主の一人息子の青木はステーキ屋の経営も、妻子も二の次というほどのテニス狂。彼はCMモデルの吉野愛子と熱烈な恋に落ちるが、先のない恋愛に疲れた彼女は、青木のもとを去る。しかし落ち込む間を惜しむかのように、彼はサイパンで出会った本井可奈子に一目惚れしてしまう…。

■感想
今ならば成立しないようなことがいくつかある。愛人であるCMモデルが自分から連絡できないことを気にする場面がある。これは携帯が発達した今ならばでてこないことだろう。ベンツに乗りホテルの高級レストランやバーで酒を飲む。そして、愛人を連れて伊豆やサイパンに旅行する。まさに誰もがイメージするリッチな青年実業家の女遊びだ。あまりに枠にはまりすぎて少し面白味がないが、今ならばこうなるのだろうか。今のIT成金たちならばもっと違った遊びをするような気がした。ベンツにそれほどのステータスもなく、ホテルの高級レストランに昔ほどの価値もない。時代は変わったのだなぁと思わせられる作品だ。

作者はテニスにこっていたようで、作者のテニス好きがわかる描写が多数ある。確かにテニスの楽しさはわかるが、ここまでテニスを神聖化する必要があるのだろうか。テニスに対しての強い思い。ゴルフではなくテニスということに何か大きな特徴があるような気がした。ブームというものもあるのだろうが、それにしても、本作を読んでいると、テニスがやりたくなってくるから不思議だ。かといって、やってみるとすぐに疲れてぐったりとなるのは目に見えているのだが…。テニスに対する作者の愛をしっかりと感じることができた。

作者の作品には金や女に不自由しない中年男がよく主人公となる。それは恐らく作者の境遇がそうだからなのだろう。作者自身の思いや経験が多分に反映されているであろう本作。実話をアレンジしたような描写もあるのだろう。愛人の言葉がある日めんどくさく感じてしまう。それは、作者が感じたことをそのままテニスボーイが代弁しているだけのような気がした。一人のリッチな男が感じる、愛人との生活や仕事に対しての思い。特に家族と愛人に対する描写についてはかなりリアルに感じてしまう。テニスボーイというのは、ほぼ間違いなく作者を投影したものなのだろう。

テニスボーイの生活をうらやましいと思うか思わないかで面白さも違ってくるだろう。



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