スローグッドバイ 


 2009.12.29  一本道の恋愛短編集 【スローグッドバイ】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
さらりと読める恋愛短編集。山あり谷ありの恋愛小説ではなく、一直線に結末まで突き進む。多少の変化はあるが、最終的にハッピーエンドとなる。読んでいて爽やかで幸せな気持ちになれるが、刺激は足りない。物語としての面白さというよりも、こうなったらいいなぁという作者の願望が強いのかもしれない。恋に破れ、何日も泣き続けるよりは、本作を読んで新しい恋に向かってくださいというようなメッセージを作品から感じてしまった。様々なタイプの恋愛模様が描かれている本作。単純な読物としては、読むのを止められないほどの中毒感はない。しかし、誰かを元気づけるような力はある。

■ストーリー

「涙を流さなくちゃ、始まらないことだってあるんだよ」。恋人にひどく傷つけられ、泣けなくなった女の子。彼女に青年の心は届くのか(「泣かない」)。上手に別れるため最後にいちばんの思い出の場所へいく。そんな「さよならデート」に出かけたふたりが見つけた答え―(「スローグッドバイ」)など普通の人たちの少しだけ特別な恋を綴った10篇。

■感想
恋に恋する人や、恋愛に強い憧れを持っている人には本作はばっちりかもしれない。人間のずるさや卑しさ、そして激しい嫉妬など恋愛にはつきものの数々の要素がほとんど登場しない。そのため、別れ話であっても妙にさわやかで、ハッピーな終わり方をしているような気がした。本来なら、恋愛がここまで綺麗にすべてがうまくいくはずがない。しかし、あくまで虚構として擬似恋愛を楽しむには良いのだろう。激しい束縛や、相手が浮気しているかもしれないという不安とは無縁の、綺麗な世界が描かれている。

恋愛の様々な状態における一番良いパターンを描いている本作。読んでいて、この先絶対に何かどんでん返しがあるという予想をことごとく裏切られた。すんなりと物語りは良い方向へと進んでいく。もう少し危機があっても良いのではないかとも思えたが、これはこれで需要のある流れなのかもしれない。別れるための最後のデートを描いた「スローグッバイ」であっても、これほど綺麗な終わり方があるのかというほど、すっきりとそして、好感度ばつぐんな終わり方をしている。別れ話=喧嘩というのは、もはや古いのだろうか。

すべての短編が通勤通学などでサラリと読めるような短編となっている。簡単に読めるかわりに、読んだ直後の余韻をじっくりと楽しむことはできないかもしれない。一日経つとどんな内容だったのか、すっきりと頭の中から抜け落ちているかもしれない。逆にそれが、また次の短編を読むときに、余計な障害とならず良いのだろう。短編の宿命とも言うべき、印象の弱さ。ただ、作品全体としては都合よく、良い方向へばかりへと進む作品集だったということだけが残っている。

本来なら辛く悲しい出来事のはずが、本作の中では綺麗で素敵な出来事へと変わっている。



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