スナーク狩り 宮部みゆき


2009.3.25  後先考えず行動する人々 【スナーク狩り】

                     
■ヒトコト感想
人と人の繋がりから事件が複雑になっていく。出来事そのものはものすごくシンプルなのだが、そこに関係する人々が気付かぬうちに思わぬ繋がりがあり、事件は複雑になっていく。基本的に恨みが事件の引き金となっている本作。後先考えず、恨みを燃料として行動にでる。行動を起こすまでは綿密な計画が練られてはいるが、その後のことはまったく考えていない。本作に登場する人々は皆そうだ。後先考えず、助けたいと思えば、何も考えずに突っ走る。その姿をすばらしいと思うか、それとも冷めた目で見てしまうのか。自分の中ではどちらかと言えば後者のような感想を持ってしまった。

■ストーリー

織口邦男が勤める釣具店に、関沼慶子は鉛版を買いに来た。不審に思った織口は、彼女が銃を持っていることを知り、ある計画を思い付く。そのためには今晩じゅうに銃を盗まなければならない。が、その晩、彼女は元恋人・国分慎介の結婚式に散弾銃を持って現われた。新郎新婦が雛壇に戻る瞬間を狙って…。スナークとは何か…!?

■感想
物語の原点は恨みにある。しかし、周りの人々はこれでもかというほど善人ぞろいだ。この違和感は何なのだろうか。人と人との繋がりから、事件は複雑化し、大きな出来事となる。ミステリー的展開や、サスペンス的ドキドキ感はない。ある程度予想した流れなのだが、登場してくる人物たちが次々と繋がっていくさまは、読んでいて心地よかった。そして、登場人物たちの後先を考えない行動。何か行動を起こして、その後どうなるのか。冷静な判断ができれば、決してその選択肢は選ばないはずなのに、選んでしまう。物語としては美談なのだが、読んでいて少し冷めてしまった。

はっきりとした悪人と善人の両極端に分かれるのも本作の特徴かもしれない。悪いやつはとことん悪く、救いようが無い。善人は、必要以上におせっかいで他人のために犠牲になることをいとわない。この両極端具合が物語にメリハリを与えている。恨みから元恋人の目の前で自殺しようとする女。別れた妻と娘の敵を討とうとする男。そこに至るまでの葛藤や、行動を起こすまでの経緯。共感はできないが、それでも気持ちはわからなくもない。そして、それらの人々を止めようとする人々。悪を裁くのか、それとも悪を裁くことをやめさせるのか。後半はすべてそのことにページを割いているような気がした。

本作の中での時間経過はものすごく短い。しかし、その短時間の間に驚くほどの出来事が詰まっている。いくつかのパートに分かれ、それらが最後にはしっかりと繋がっていく。読み終わると、なんだかぐったりと疲れてしまった。悪は悪として裁かれ、善人であっても恨みから悪を裁こうとした人間はそれなりの結末がまっている。因果応報というか、なるようになった結末なのだろう。ただ、読後感は決して良いものではない。すっきりとした、さわやかな気分にはなれない。なんだか、いたたまれない気持ちになるというのが一番正しい表現の仕方だろうか。

悪を悪として描くというのは、とても難しいのだと感じさせる作品だ。



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