ステップファーザー・ステップ 宮部みゆき


2009.4.13  ありえないほど素直な双子 【ステップファーザー・ステップ】

                     
■ヒトコト感想
プロの泥棒が不幸な偶然から奇妙な双子に出会う。両親が行方不明の双子は泥棒を擬似の父親とみたて、生活をしていく。これだけだと、まるで漫画やドラマのあらすじのように感じてしまうだろう。実際、ドラマなどにしてもぴったりはまるかもしれない。しかし、物語は終始ほのぼのとしている。双子は中学生という多感な時期にかかわらず、とても良い子だったり、泥棒が泥棒でありながら、思いやりにあふれる善人だったり。泥棒の元締めとも言うべき情報役が、あらゆる情報を瞬時に入手できたり。ずいぶん都合が良い。そのおかげで物語りは余計な寄り道をせずに、しっかりと目的だけを達成していく。恨みつらみや、憎しみあふれる事件はない。あるのは、ちょっとした行き違いや勘違い、または偶然の事故ばかりだ。双子という部分に新しさを感じるが、終始ほのぼのとした物語だ。

■ストーリー

中学生の双子の兄弟が住む家に落っこちてきたのは、なんとプロの泥棒だった。そして、一緒に暮らし始めた3人。まるで父子のような(!?)家庭生活がスタートする。

■感想
泥棒と中学生の双子の擬似親子生活。常に一緒に生活するわけではなく、必要なときに呼び出される都合の良い父親となっている。中学生として、どうしても父親の存在が必要となる場面がある。そのときだけ、呼ばれるような他人行儀な関係ではない。双子は「お父さん」と呼ぶ。この双子が、まるで穢れをしらない天使のように思えてくるから不思議だ。擬似の父親役を押し付けられた泥棒は、冷たく突き放してもよいはずなのに、なぜか協力する。いつのまにか、擬似の父親という役を心地よく感じていたのは確かだろう。それはまるで、長い間親元を離れて生活すると、そこが親以上の環境になってしまったような…。双子や泥棒。両方の気持ちもわからなくもない。

双子の擬似父親を演じながら様々な事件に遭遇する泥棒。その事件は猟奇的であったり、恨みや怒りが渦巻いているようなことはいっさいない。ちょっと不思議な出来事が、実は事件だったり。ちょっとした事故から事件のように錯覚されたり。物語は常に明るくほのぼのとしている。泥棒の元締めのような役割の者が、強力な情報収集能力をもっており、まどろっこしい部分はとっぱらって一気に確信へ近づく。短編に優しい能力を持った脇役たちだ。そのおかげで、物語は双子と泥棒の関係にページを割くことができる。事件をとおして、お互いの絆が深まり、離れられない関係へとシフトしていく。典型的なハートフル作品になりつつある。

双子の、中学生にしてはマジメすぎる部分は抜きにしても、中学生という扱いにくい年齢をどのように処理するのか。あまりに不自然だと、とたんに作品全体がうそ臭くなってしまう。反抗的態度や金銭的問題。ある意味、両親に捨てられたような状態でありながら、これほど素直な子供のままでいられるだろうか。周りの大人たちも、この双子に対していつのまにか引き付けられている。たまに、事件に対して妙にするどい推理を見せたかと思うと、あっさりと誘拐されてみたりもする。双子が同時期に誘拐されるという、かなりご都合主義的な展開はあるにしても、双子という部分を存分に利用している。

凄惨な事件や事故が起きるでもなく、終始ほのぼのとした展開が繰り広げられている。



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