その日のまえに 重松清


2009.9.5  泣けすぎてやばい 【その日のまえに】

                     
■ヒトコト感想
かなりガツンときた。死をテーマとした短編だけに、あざとくも感じたが、どうしてもジーンときてしまう場面がある。しかし、本作はテーマを割り引いても十分心にしみ渡り、思わず涙がこぼれそうになってしまう。特に後半の「その日」あたりはすごかった。読みながら常に考えていたのは、もし、自分が同じ立場になったらどうするだろうかということだ。それを考えると、感動せずにはいられない。安易に感情移入したわけではないが、引き込まれてしまったというのが正しいのだろう。特に、死んだ妻からの手紙のあたりは、やばすぎる。現実として想像すると、電車の中にも関わらず、目から涙がにじみ出てしまった。

■ストーリー

僕たちは「その日」に向かって生きてきた―。昨日までの、そして、明日からも続くはずの毎日を不意に断ち切る家族の死。消えゆく命を前にして、いったい何ができるのだろうか…。死にゆく妻を静かに見送る父と子らを中心に、それぞれのなかにある生と死、そして日常のなかにある幸せの意味を見つめる連作短編集。

■感想
死をテーマとした短編集。死を見守る側は、どんな感情をもつのか。誰もが通る道なのかもしれない。幸運にも、今までそのような場面に出会ったことはないが、遅かれ早かれ出会うことだろう。自分だったらどうするか、そんなことを考えながら読み進めていた。前半部分は特別な思いもなく、淡々と読むことができた。もしかしたら、死を扱うということで、ある程度身構えていたというのもあるかもしれない。ありきたりと感じながらも、死が迫った人とその周りの人というのは、やはり何か特別なのだろうと感じてしまった。

後半の3つの短編にはやられた。身構えていたにも関わらず、心のちょっとした隙間に入り込み、あっという間に侵食していった。幼い子供を残して死んでいく妻。それを見届ける夫。思い出の地をめぐるなんてのは、もっともありがちな泣きポイントだ。それを理解しつつも、泣けてきた。おそらく自分の未来を想像し、子供がいたら、妻に死がせまっていたら、なんてことを考えてしまったのだろう。似たような家族構成の人は、必ず泣けるだろう。

ラストの余韻もすばらしい。思い出となりながらも、だんだんと妻のいない生活に慣れていく家族。その時、妻が残した手紙というのが、強烈だ。一言しか書かれていないが、どんな思いで、どんなことを想像してこの手紙を書いたのだろう。自分がいない生活を想像しながら書く。その状況で、その立場だったらどう思うかわからない。しかし、その場面を想像するだけで、なんだか涙がこぼれそうになってきた。「その日」が訪れた、その後、いったいどうなるのか。ものすごく普通な家庭のように感じただけに、久しぶりの外食にはしゃぐ子供たちなんて描かれると、これまた、涙がこぼれそうになってしまう。

電車の中で読むと危険かもしれない。



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