震源 真保祐一


2010.4.15  あまりに巨大すぎる謀略 【震源】

                     
■ヒトコト感想
ある一人の人物のミスが地震警報の遅れとなり、津波で怪我人がでる。そこから始まる物語は、想像できないほどの大きな黒幕の存在と、事件の裏に隠された真相がみえないことに、不安と興奮を感じてしまう。カモフラージュにカモフラージュを重ね、本当に隠したいものはいったい何なのか。ラストにはそれらが明かされるのだが、国家規模での隠蔽のはずが、真相に対してそれほど大きな驚きがない。あまりに巨大すぎる勢力の話となると、実感がない。この際、プルトニウムの事故などの方が隠さなければならない出来事という印象がある。国家間の駆け引きを持ち出されても、恐ろしさは感じないが、秘密を守るために、あらゆる手段が用いられていると、事態の大きさを否が応でも思い知らされる。真相があまりに大きすぎて実感できない作品だ。

■ストーリー

地震で津波が発生し、警報が遅れる事故が起こった。地震火山研究官の江坂は、ミスをした森本を鹿児島に訪ねるが、彼はすでに退職し姿を消していた。同じ頃、森本と同窓の大学教授も、地震の観測データを持ったまま、行方不明に。そこには国家的陰謀が渦巻いていた!

■感想
地震予測から始まり、火山研究へと続く。失踪した森本を探す過程で江坂が出会う不思議な現象。火山研究のデータが抜き取られ、やるはずだった火山調査ができない。そこには海上保安庁を巻き込んだ大きな策略のにおいを感じさせる流れとなっている。本作のミステリーとしてのピークは中盤におとずれる。すべてを江坂に告げようとした森本が…。江坂視点と隠蔽に必死となる警察視点の二つから描かれる本作。江坂視点はもちろんのこと、警察視点であっても黒幕や目的がはっきりしない。そのため、どれだけ大規模な隠蔽工作がとられているのかさえ不明なまま物語は進んでいく。

味方と思った者が敵であり。敵と思っていた者が実は味方だった。定番的流れだが、複雑に絡み合う人間関係の中で、江坂が出会う様々な人は敵か味方かわからない。少しずつ真実が明らかとなっているように見えるが、実はそれすらもとてつもなく大きな組織が準備したカモフラージュにすぎない。江坂の推理から始まり、それが間違いだとわかると、さらに大事件の推理をする。読者もそのあたりがオチだろうと思うが、実はもっと大きな黒幕と、とてつもない規模の陰謀が隠されていた。これがあまりに巨大すぎて、その重大さを説明されてはいるが、実感はまったくわいてこない。

巨大すぎる謀略と、国家間を巻き込む利害関係というのは、身近でなさすぎるため、ぼんやりとした印象しかない。そのことが重要だというのはわかるが、秘密を守るために犠牲者をだすことを厭わないなどということがあるのか。すでに物語はいち火山研究者である江坂の想像をはるかに超え、超情報戦が繰り広げられる。読者は江坂と同じように、何が正義で何が悪なのか。国家のために守るべきか、自分の信念を貫くべきかに迷う。あまりに巨大すぎる謀略は人をマヒさせる効果がある。

ひとつの火山研究からとんでもないところへまで飛躍する。この想像力はすばらしい。



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