下北サンデーズ 石田衣良


2009.11.22  貧乏劇団の出世物語 【下北サンデーズ】

                     
■ヒトコト感想
ドラマは流行らず打ち切りになったようだが、原作は面白い。あまりにトントン拍子に進みすぎているという感もあるが、キャラクターが良い。特に主役の里中ゆいかが良かった。ドラマは上戸彩が演じていたようだが、読んでいる間中、ゆいかは上戸彩をイメージして読んだ。劇団の世界というのも興味深かったし、貧乏劇団というのも良い。もうちょっと挫折やドロドロとしたものがあっても良かったと思うが、青春ドラマとしてまっすぐに進む強い心というのは感じることができた。下北沢という土地柄や、演劇の世界、そして、はじけた雰囲気。ゆいかの、純真無垢だが一本筋の通った考え方や、バージンだということを気にするしぐさなど、すべてがよかった。本作はキャラクターによって支えられている。

■ストーリー

弱小劇団「下北サンデーズ」の門を叩いた里中ゆいか。壮絶に貧乏で情熱的かつ変態的な世界に圧倒されつつも、次第に女優としての才能を開花させていく。やがて下北サンデーズにも追い風が吹き始め、徐々にその知名度を上げていくが、思わぬトラブルも続発することに。演劇の聖地・下北沢を舞台に夢を懸けて奮闘する男女を描く青春グラフィティ。

■感想
弱小劇団、下北サンデーズに入った里中ゆいか。劇団員というのは誰もが想像するように貧乏だ。それを本作ではあからさまに表現している。貧乏ゆえに、金の争いや、劇団の行く末。人気がでてくれば、それに群がる様々な人々がいる。劇団員たちが、売れていく過程でどのように変わっていくか。里中ゆいかという、穢れをしらない乙女が入ってきたとき、どのような科学反応が起きるのか。下北沢の劇団事情というだけで、どこかサブカルチャーの香りがただよってくる。痩せたひげ面で長髪の男が、おしゃれな格好をして立ち飲み屋で焼酎を飲む、そんなイメージだろうか。

ゆいかが主人公なので爽やかな青春物語となってはいるが、登場している劇団員たちはアラサーだ。物語は下北サンデーズがどんどんとステップアップし、大きな劇場へとたどりついていく。その過程で、ゆいかがグラビアアイドルとしてスカウトされたり、サンボ現がCMにでたりと、劇団員たちの絆にひびが入る。このあたりはお決まりどうり、下北サンデーズの存続の危機なのだが、それが少し弱い。もっと強烈で、インパクトのでかい危機がおとづれるかと思ったが、そうでもなかった。そのため、下北サンデーズはすんなりと出世海道をひた走っているように思えてしまう。

ドラマは見ていないが、本作を読むとドラマを見たくなる。原作のゆいかは上戸彩が適役だと思う。その他も個性豊かな配役なので面白そうだが、打ち切りということはそれなりだったのだろう。青春物語にありがちな大きな危機を乗り越えて成功するという感じではない。わりとすんなりと進むが、本作の見所は下北沢という土地で劇団をやるということなのだろう。劇団の世界はまったく知らないが、本作を読み終わると、劇団に対しても興味がわいてきた。へたしたら、どこかの弱小劇団の舞台でも見に行こうかと思うほどだ。

貧乏劇団の青春物語としては、谷があまりなく、山ばかりだが面白い。



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