使命と魂のリミット 東野圭吾


2010.3.8  名医が手術に失敗した理由 【使命と魂のリミット】

                     
■ヒトコト感想
自分に与えられた使命とは何なのか。そんなことを考えさせられる作品。父親が死んだのは医療ミスと言う名の故意的な何かがあったのではないかと疑う夕紀。そこには、執刀医である西園と母親との再婚話や、その他様々な要因から、夕紀の疑いが晴れることはない。この部分は非常に引き付けられる展開だ。その他にもいくつかのエピソードが重なりあい、帝都大学病院に医療ミスを告発する脅迫状が届く。結末はある程度予想がつくが、そこに至るまでの過程がすばらしい。数々の伏線から、西園は故意に夕紀の父親の手術に失敗したと思わせる流れ。偶然の出来事から婚約者を亡くした男。世間に対して医療ミスの何たるかを啓蒙するような作品ではない。使命の重大さを感じさせる作品だ。

■ストーリー

「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」突然の脅迫状に揺れる帝都大学病院。「隠された医療ミスなどない」と断言する心臓血管外科の権威・西園教授。しかし、研修医・氷室夕紀は、その言葉を鵜呑みにできなかった。西園が執刀した手術で帰らぬ人となった彼女の父は、意図的に死に至らしめられたのではという疑念を抱いていたからだ…。あの日、手術室で何があったのか?今日、何が起こるのか?大病院を前代未聞の危機が襲う。

■感想
「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」という脅迫。父親を西園の執刀で亡くした夕紀。二つの大きな出来事が本作のメインとなっている。夕紀が自分の父親に対して、西園がどのような手術を行い、なぜ名医と言われた西園が失敗したのかを探る部分。これはかなり強烈だ。夫を亡くした母親が、その後西園と良い関係となる。自然と疑われる以前からの二人の関係。夕紀の悩む姿は、そのまま読者の疑問となり、物語は西園が故意に医療ミスを引き起こしたと思えるような流れとなっていく。

夕紀のエピソードと平行するように、婚約者を亡くした男が病院を脅迫するという部分がある。このあたりは、どうしてもまどろっこしく感じてしまう。動機が警察でもわからないほど間接的な理由であり、さらには、実行計画もかなり間接的だ。計画を成功させるには、綿密な準備と下調べが必要であり、ここは作者お得意の、近い立場の女に近づくという方法をとっている。夕紀のエピソードは物語が進むにつれて新たな事実が登場し、非常に興味深くなる。一方、脅迫関連は事実がわかってくるにつれ、尻すぼみのような感じになっているように思えた。

ラストはしっかりと結論をだしている。自分に与えられた使命とは一体何なのか。夕紀の父親は使命を果たし、その結果、刑事を辞めることになる。西園は使命を果たしたのか、夕紀は自分の使命を見つけ出し、果たすことができるのか。病院脅迫の結末は…。前半のテンションからすると、後半は少しおとなしいように感じられた。その心が一切わからなかった西園にしても、ある程度予定調和的な結末となっている。偶然にも、昨今のトヨタの問題を彷彿とさせるような流れも含まれている本作。まどろっこしさだけは払拭できなかったが、それでも十分に楽しめる作品だ。

夕紀関連のエピソードはかなり興味をそそられる部分だ。



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