青春夜明け前 重松清


2009.11.8  特徴的な方言を思いだした 【青春夜明け前】

                     
■ヒトコト感想
本作でいうところの青春をすごした田舎が、実は自分の田舎とまったく同じだということにすぐ気付いた。独特の方言と、本州の西の端という描写。イニシャルで登場する高校名も、どの高校のことかすぐにわかった。なつかしの方言と、時代は違うが、同じ土地で少年時代をすごした思い。否が応でもシンクロせずにはいられない。本作のような面白エピソードや下品な部分はそれほどなかったが、自分の少年時代も似たようなことはあった。方言によってそのころの記憶が思い起こされるはずだったが、意外なほどでてこなかった。すでに田舎を離れて随分たつので、記憶は薄れてしまっている。作者のように同級生の固有名詞をしっかりと記憶していなければ、思いでも強く心に残っていない。なんだか少し寂しくなってしまった。

■ストーリー

10代、男子。愛おしくおバカな季節。何かというとボッキしてばかりいたあの頃の僕たちは、勘違い全開のエロ話と「同盟」「条約」「宣戦布告」という言葉が好きだった。そして何より「親友」という言葉が大好きだった。男子の、男子による、男子のための(女子も歓迎!)、きらめく7編の物語。

■感想
時代は違えど、同じ土地で少年時代をすごした作者と自分はどこか通じるものがあるのかもしれない。地方独特の方言と、中学になると強制的にさせられる坊主頭。今となってはよくやっていたなぁと思うヘルメット通学。すべてがその当時は当たり前のこととして、受け入れていた。本作のように、坊主頭を恥ずかしいと思うこともなければ、権威に反抗しようとも思わない。女の子との甘酸っぱい経験もほとんどなければ、本作のような危険で、そして面白いエピソードもない。当然、ごく普通の田舎少年にも、何かしら思い出はあり、懐かしく思うこともある。本作を読むことで、それらが滝のように思い出されるかと思っていたが、そうはならなかった。

本作と同じく、高校を卒業したら田舎を出て行ったものとして、少年時代の思い出は、いっぱいあってもよいはずだった。本作では、仲間の名前までしっかりと明記されており、思い出もはっきりしたもののようだ。それに比べて、自分の思い出を考えると、すごく曖昧なことに驚いた。あれほど仲がよかった友達の名前がでてこないのだ。秘密基地を作ったり、山の中で車が止まり、怪しくゆれているのを覗きにいったりと、本作の短編にでてきそうな経験をしているはずだが、友達の顔はでてきても名前がでてこないのだ。もしかしたら、卒業以来、疎遠になっているのが原因かもしれないが、このことにかなりショックを受けた。

本作を普通の人が読んで、この方言をどう感じるだろうか。読みにくく感じないのだろうか。自分はまったく違和感なく、田舎を思いだしたのだが、普通はそうではないだろう。少年時代のしょうもないできごとを懐かしみながら、自分はこうだったと思いだすのが正しい楽しみ方なのだろう。くだらないギャグや、下品な行動に共感しながら、自分はこうだったと思いだす。同じ方言ということで、思い出がよみがえるはずが、そうはならなかった。もしかしたら自分の心の中で田舎というものは、物語の世界のようになっているのかもしれない。本作を読んでつくづくそう思ってしまった。リアルな現実よりも、物語の方がリアルに感じてしまった。

青春時代を思い出すには、方言があまりにリアルすぎた。



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