さまよう刃 東野圭吾


2008.8.9  自分だったらどうするか… 【さまよう刃】

                     
■ヒトコト感想
少年犯罪をテーマとした上質なミステリー。単純に娘を殺された父親が加害者に復讐するだけの物語であれば、これほど読者を引きつけることはないだろう。被害者の父親を取り巻く様々な人々。加害者としてステレオタイプな若者を描きつつも、その得体の知れない部分をより強調している流れ。本作を読んで必ず考えるのは、自分だったらどうするかということだろう。自分の身内が、何も考えない若者に殺され、その後逮捕されたとしてもすぐに出所する現実。本作の長峰のようにはらわた煮えくり返る思いは変わらないだろう。ただ、同じように実行にうつせるかどうか。本作はある意味、踏み絵的作品のように思えた。自分がどちら側の人間なのか、考えるきっかけとなりそうだ。

■ストーリー

自分の子供が殺されたら、あなたは復讐しますか?長峰重樹の娘、絵摩の死体が荒川の下流で発見される。犯人を告げる一本の密告電話が長峰の元に入った。それを聞いた長峰は半信半疑のまま、娘の復讐に動き出す――。遺族の復讐と少年犯罪をテーマにした問題作。

■感想
問題作といえば問題作なのだろう。本作を読んだことで、同じような立場の被害者が何かしらの行動を起こさないとも限らない。幸せな結末を迎えていない本作。かならずしも、復讐を美化していないのだが、否定もしていない。このあたりは作者の微妙な心情がうかがえるようだ。はっきり言えば、本作のようなケースの場合、誰も表立って長峰を批判できないだろう。できるのは、きれいごとが大好きな公的立場にいるものだけだろう。本作を読んで思う気持ちは、恐らく大多数の人が思う気持ちだろう。それは、当然長峰側の立場での話しだ。

物語の冒頭から中盤まで、単純に復讐物語であれば、これほど印象に残ることはなかっただろう。復讐の鬼となり、加害者たちを殺していく。それほど単純では終わらない本作だからこそ、いろいろと考えさせられるなにかがある。加害者グループに無理やり参加させられた誠や、長峰をサポートする女など、一つの事件をきっかけに思う気持ちと行動を一致させるのは、これほど難しいものなのかと、しみじみ感じさせられた。事件の周辺、特にメディアにさらされた人々の苦悩まで描いた本作。どの立場に立とうとも、尋常ではないストレスを感じることだろう。

ラストの展開は秀逸だ。まるで映画を見ているように、一つのポイントへ集中する人々。様々な思惑を持ったものたちが、集合し、秒単位でのすれ違いを経験しながら、時間だけが進んでいく。錯綜する人々の中で、復讐という一つの思いだけを強く願いながら猟銃を構える長峰。ラストの展開はある程度予想できたが、そこに至るまで、そして、謎の情報提供者など、一筋縄では終わらないラストの展開はすばらしいの一言しかない。

テーマ的にかなりデリケートな問題なのだが、映画作品になりやすそうな気がした。もしかしたらそのうち映画化されるかもしれない。



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