2009.8.30  笑いがでる恐怖の元凶 【叫】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
CUREというのはかなり名作だったと思う。その流れを汲むように、本作は次々と発生する不可解な連続殺人事件を刑事・吉岡が担当しながら、次第にその事件の虜となっていく様を描いている。建物が薄汚れていたり、独特の空気感だったり、すでに作品全体から恐怖がにじみでている。この雰囲気は恐ろしいのだが、実際の恐怖の元凶そのものはたいしたことがない。奇妙な出来事や、得体の知れない雰囲気というのは恐ろしいが、そのものずばりと登場した恐怖は、まったく怖くない。もし、画面の色調が明るく、おしゃれなマンションなどであれば、ただの二時間ドラマにしか思えないだろう。期待していただけに、ちょっとがっかりした。

■ストーリー

連続殺人事件を追う刑事・吉岡(役所)は、捜査を進めるうち奇妙な感情の虜になる。「もしや、自分が犯人ではないのか?」。曖昧な記憶、被害者の周辺に残る自分の残滓(ざんし)、揺らいでゆく自身のアイデンティティ…。刑事としての自分を取り巻く環境の微妙な変化と、自己を信じられなくなる不安の中で、吉岡に突きつけられる現実とは……!?

■感想
ある殺人事件が発生し、担当刑事が「自分が犯人ではないのか?」という錯覚に陥る物語。古ぼけたアパートやはがれた壁、どの場面も廃墟的な雰囲気をただよわせ、まず絵面で恐ろしさを表現している。この独特な雰囲気はすばらしいと思う。建物の屋上から飛び降りる場面をワンカットで写し続けるのは衝撃的だ。何かトリックがあるとわかっていても、人が屋上から地面に落ちるまでをカット割りなしに写されると、トラウマになるほどの衝撃だ。この手の映像トリックと雰囲気は申し分ないのだが、肝心の内容が…。

CUREと似ているといえば似ている。知らず知らずのうちにある決まった方法で殺人を犯している。その元凶たるものが、CUREはものすごく恐ろしかったが、本作はなんだか笑いがでてしまった。真っ赤な服を着た女が象徴的に描かれ、いかにもな演出。リングで言うところの貞子的扱いのはずが、まったく恐ろしくない。逆に、吉岡とふつうに生活していた、寡黙な女のほうがよっぽど恐ろしい雰囲気を漂わせていた。本作は雰囲気だけで終わればよかったのだ。そのものズバリを見せてしまったのは失敗だったのだろう。

ラストの吉岡に突きつけられた現実は、少し驚いた。ただ、それはホラーというよりもミステリー的な驚きかもしれない。無理矢理貞子的なものを登場させたとしか思えない流れ。回路ではゾクゾクするほど恐ろしい未知なるものを描いていた監督なのに、これはどうなのか。幽霊らしく歩かず、すべるように移動するのが特徴かもしれないが、窓から空を飛んだシーンは、はためく赤いドレスが、なんとなくだがスーパーマンのマントに見えてしまった。恐ろしさのかけらもない。

雰囲気は恐ろしいが、肝心要がダメなので、トータルでは微妙な作品となっている。



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