パーフェクト・ブルー 宮部みゆき


2008.12.24  ステレオタイプなミステリー 【パーフェクト・ブルー】

                     
■ヒトコト感想
ミステリーとして興味を引かれる部分は、登場人物たちのキャラクターもそうだが、何よりその事件の特殊性だろう。まれに、濃密な人物描写でキャラクターに入り込むパターンもあるが、ほとんどが事件の複雑さと緻密なトリックにやられる場合が多い。本作でいうと、キャラクターはなんだかどこにでもある探偵小説ものの登場人物のような気がした。事件にしても、火達磨になる死体というのは確かにインパクトはあるのだが、事件としての奇妙さはない。甲子園のスーパースターと製薬会社のなぞの薬。それらが複雑に絡み合い、事件の犯人は意外な人物が…。確かに意外といえばそうだが、驚きはない。二つの出来事が繋がるまでが面白さのピークで繋がりが見えると、なんだか予定調和的に感じてしまった。

■ストーリー

高校野球界のスーパースターが全身にガソリンをかけられ、焼き殺されるというショキングな事件が起こった。俺、元警察犬のマサは、現在の飼い主、蓮見探偵事務所の調査員、加代子と共に落ちこぼれの少年、諸岡進也を探し当て、自宅に連れ帰る途中、その現場に遭遇する。犬の一人称という斬新なスタイルで、社会的なテーマを描く

■感想
ナンバー・エイトというなぞの薬。そして、死体が火達磨となった甲子園のスーパースター。題材としても面白く、雰囲気も嫌いではない。しかし、探偵役のキャラクターたちがどうもステレオタイプのキャラというか、よくあるパターンだというのが残念だった。美人姉妹に頼りがいのある所長。要領がよく、喧嘩も強く、それでいて家出中の少年。その少年が世話になっているなぞの多いマスター。はっきりいえばわかりやすすぎるし、面白味がない。ありきたりすぎるという思いが強かった。

ひとつの事件が起こり、そのなぞを解こうとする。どうも、この事件自体に奇妙さや複雑さを感じなかった。何か大きなトリックが隠されているのだろうが、それをにおわすものがない。ただのちょっとした殺人事件としての印象しかなかった。そして、それと平行するように、なぞの製薬会社の話がでてくるのだが、こちらの方が緊迫感があった。二つは絶対につながりがあるのだろうが、それを予測するという楽しみと、どのようにうまくつなげるのか、それは読んでいて非常に興味深かった。そこまでが本作の面白さのピークかもしれない。

後半になり、事件の真相が明らかとなると、確かに意外は意外だが、そんなものかという思いが強かった。どうも予定調和的な危機が訪れ、うまい具合に助けがはいり、無事切り抜ける。やっすい二時間ドラマを見ているように、廃墟から助けられる姉妹たちが頭に思い浮かんでしまった。中盤までのドキドキ感は、終盤にはすっきりとなくなる。結末もなんだか駆け足で、わかりやすかったのだが、そうなのかという印象しか残らなかった。

ドラマとしての面白さがあまり感じられなかったのと、事件の平凡さがそう感じさせるのだろうか。なんだかずいぶんありきたりのように感じた。



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