黄金を抱いて翔べ 高村薫


2008.12.31  男臭さに満ち溢れている 【黄金を抱いて翔べ】

                     
■ヒトコト感想
ギャングものというのだろうか。サスペンスとして金塊を奪い取るその準備段階にすべての面白さを凝縮しているようだ。個性豊かな登場人物たちが、様々な危機に直面しながらもなんとかのりきり、金塊を奪取しようとする。この登場人物たちの普通ではない雰囲気はどうなのだろうか。ただのサラリーマンのはずが、ずいぶんといろいろなことができてしまう。あるときは格闘技の達人で、あるときは天才的なクラッカーとなる。それぞれの役割を与えられた登場人物たちが暴れまわるのはお決まりどおりだが、納得できない場面も多々ある。全体の雰囲気としてずいぶんにぎやかで騒がしく、そして詰め込みすぎているのではという印象を強くもった。そのせいか、読み終わって結局なんだったのかよくわからなかった。

■ストーリー

コンピュータで制御された鉄壁の防護システムの向う側に眠る6トンの金塊、しめて100億円―。地下ケーブルが、変電所が黒煙をあげ、エレベータは金庫めざして急降下。練りに練った奪取作戦の幕が、いよいよ切って落とされた。メカ、電気系統、爆薬等、確乎たるディテールで描く、破天荒無比なサスペンス大作。

■感想
いろいろなディティールが詰め込まれている。作者の細部にまで徹底してこだわる完璧主義な部分もかいま見えたかと思うと、ずいぶんあっさりと済ませてしまう場合もある。作者は電気系統や鉄鋼系が得意なのだろう。爆発物の詳細な描写など、読んでみるとかなり驚かされる部分でもある。かと思えば、コンピュータ、特にパソコン通信に関してはあっさりと流している。いくらなんでも、それはできないだろうということをなんの説明もなしにやり遂げる登場人物たち。作者の熱の入れ方の違いがよくわかる部分でもある。

サスペンスとして最後は無事に金塊を奪うことができるのか、それを目的として読み続けたのだが、ラストになる前にピークは訪れた。それは様々なメンバーが集まり、それぞれの役割をはたすまでの準備段階だ。それぞれのスペシャリストたちが目的へ向かって一致団結するわけでもなく、妨害や仲間割れなど、定番だが興味を引かれる場面が多数存在する。しかし、最後に実行するにあたって作品の面白さがピークに達するかと思いきや、意外なほど何の興奮もなく終わってしまう。なんだか拍子抜けしたというような感じだろうか。

おそらく本作は人によってずいぶんと感じ方が変わるだろう。自分の場合は、前半から中盤にかけてのにぎやかさが気になり、物語に集中することができなかった。そのため、キャラクターひとりひとりに特別な思い入れもなく、誰が脱落して、誰が最後まで残ろうとも何の感想ももたなかった。そのため、物語の本当の面白さに気づく前に、サラリと駆け足で読みすすめてしまったというような感じだろうか。集中力がもたなかったというのが一番ただしい表現かもしれない。

男臭さ満載なサスペンスだ。



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