熱球 重松清


2008.8.27  青春時代のあの思い  【熱球】

                     
■ヒトコト感想
高校野球も終わったこの時期に読むべき作品だろう。わけありの地区予選準優勝投手がなつかしの故郷に帰る。読んでいてものすごく身にしみたというか、同じような感覚になった。親を田舎に残し、東京へでるという状況。将来的なことを考え悩む男。高校時代のなつかしの面々と会う。それらは全て現実に起こりうるリアルなことで、状況的にも同じ思いをしている人は多いのかもしれない。田舎独特のコミュニティに戸惑う様もまさにそのとおりだと思った。これらは田舎から都会へ出た人すべてに共通する思いなのかもしれない。たとえ青春時代に何かに心血を注いだモノがなかったとしても、ノスタルジックな気分になるのは間違いない。

■ストーリー

20年前、町中が甲子園の夢に燃えていた。夢が壊れたとき、捨てたはずの故郷だった。しかし、今。母を亡くした父一人の家に帰ってきた失業中の男と、小学5年の娘。ボストン留学中の妻はメール家族。新しい家族の暮らしがはじまる。懐かしいナインの面々。会いたかった人々。母校野球部のコーチとして、とまどう日々。そして、見つけたのは。

■感想
難しい時期の子供を持ち、失業状態で田舎へ帰る。さらには妻は海外へ転勤中。まさに全ての思いがこの男一人にかかっているような状況だ。もし、自分が同じ立場になったとしたら…。考えただけでも冷や汗ものだ。山積みの問題を処理しながらも次々と新たな問題が降りかかってくる。もし、自分だったら間違いなく、何もかも投げ捨てて東京へ逃亡してしまうかもしれない。家族を持つ男の責任感だろうか。それとも、男の強さだろうか。自分ならどうなっていたか、そんなことを真剣に考えてしまった。

田舎暮らしということに家族が対応できるだろうか。実はそれも大きな問題だ。本作でも、娘がイジメにあったりと田舎独特の風習になじめなかったりと様々な状況が訪れる。ただ、そんな状況でも父親に心配かけまいとする娘。この娘がものすごくけなげで可愛い。娘の言葉をそのまま信じる男に対して、母親が警告するあたり、とてもドキリとする場面だ。娘のためにはどうすることが一番良いのか。娘のプライドを守ることも重要だが、どうすることが一番なのか…。本作を読んで学んだことの一つだ。

高校時代に必死になって練習し、甲子園を目指す。進学校でありながら土日休みなしで練習を続ける。なんだか、これほど真剣に打ち込めるものに出会った男は幸せだと思った。自分の高校時代はどうだったのだろうか。何に対してもある程度覚めたスタンスで、すかした態度をとるしょうもない高校生だっただけに、ものすごくうらやましく感じてしまった。懐かしい人々との再会であっても、その状況において多少の違和感はあるにしても、うらやましい再会だと思う。

読んでいる間中、ものすごくノスタルジーを感じてしまう。それは恐らく状況が似通っており、主人公と何か通じる部分があるからだろう。



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