眠れぬ真珠 石田衣良


2010.3.18  中年女性の儚い恋 【眠れぬ真珠】

                     
■ヒトコト感想
恋愛小説はそれほど得意ではないが、作者の作品はいくつか読んだことがある。本作は大人の女性をターゲットとした恋愛小説なのだろうか。中年の女が17歳も年下の男に恋をする。売れっ子女優と付き合うほどモテる男であっても、中年の女に恋をする。大人の女性目線の作品ということで、若い男の本心がどうなのかわからない。どのような心境で17歳も年上の女性と付き合おうと思ったのだろうか。どうしても男目線で考えてしまうため、そのあたりに違和感をもたずにいられなかった。本作を若い女性が読んだとき、主人公に感情移入できるだろうか。もしかしたら、恋人を年上の女に奪われる売れっ子女優の方に感情移入してしまうかもしれない。恋の始まりがものすごく曖昧なため、薄っぺらい印象は最後まで拭いきれなかった。

■ストーリー

出会いは運命だった。17も年下の彼に、こんなにも惹かれてゆく―。孤高の魂を持つ、版画家の咲世子。人生の後半に訪れた素樹との恋は、大人の彼女を、無防備で傷つきやすい少女に変えた。愛しあう歓びと別離の予感が、咲世子の中で激しくせめぎあう。けれども若く美しいライバル、ノアの出現に咲世子は…。一瞬を永遠に変える恋の奇蹟。

■感想
本作を男目線で読めば理解できず、女目線、それも主人公に年齢が近ければ近いほど何かを感じるのだろうか。まず、ことの発端として、若い男が17歳も年上の女性に好意をいだかなければ話にならない。中年の女性だけが若者を好ましく思っても、そこから変化があるわけはない。男の方が何かしら自分に好意を持っていると気付いた時、初めて物語が成立するのだ。そこに至るまでの導入部ともいうべき部分で、若者が中年の女性に恋をするきっかけがほとんど描かれていない。出合った最初からお互いに惹かれあうなど、若者同士であればまだしも、片方が中年でありえるのだろうか。このあたりにリアル感を感じなかった。

大人の女性の恋というのは、相手に気を使いつつも、自分の欲望をあらわにする。作者が男だけに、どの程度女性の気持ちを表現できているのか。本作を女性の、それも主人公に近い年齢の人に感想を聞いてみたいものだ。仕事は充実していても、一人寂しいというのはよくわかる。そこではたして、若い男に入れ込んだりするものだろうか。どちらかといえば、三宅のような男が一番似合うような気がした。本作の中で一番三宅にリアリティを感じ、物語として生き生きしていると思ったキャラは三宅だけだ。そう思う時点で、極度の男目線ということなのかもしれない。

正直言えば、女性の気持ちは最後まで理解できないだろう。三宅のストーカーと化した若い女や、主人公の気持ち。中年女性に恋をする若い男の気持ちはもっとわからないが、本作のメインである咲世子の心は最後まで未知のものだった。更年期障害うんぬんや、子供が産めない年齢など、それらの描写を読むと、たとえどんなに綺麗な人であっても、恋愛感情は生まれるわけがないと思ってしまう。二十歳と三十七歳ではなく、二十八歳と四十五歳というのは、想像以上に大きな差だと思えて仕方がなかった。

変に理解しようとするよりも、そのままずばりを受け入れた方が良いのだろう。



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