メランコリア 村上龍


2008.9.9  ひたすら続く独白 【メランコリア】

                     
■ヒトコト感想
ヤザキをインタビューするミチコ。ヤザキの独白がほぼ全てを占めていると言っていい本作。ヤザキの独白の中には物語りがあり、それだけで壮大な世界観が作りこまれている。ただし、そこにどれだけ共感できるだろうか。ミチコが知らず知らずのうちにヤザキに惹かれた原因は何なのだろうか。伝説の男、ヤザキの魅力をどれだけ感じることができるか。独白の中には、すでに、またかという感想を持つしかないのだが、相変わらずSMが含まれている。薬物と快楽の世界。そこに没頭したヤザキの魅力というものを少しでも感じることができれば、ミチコのように、作品世界へと没頭することができるのだろう。残念ながら、自分の中では少し覚めた目で読んでしまった。

■ストーリー

伝説の男が帰ってきた…。ニューヨークのダウンタウンでホームレスに身をやつし、隠遁していた謎の男・ヤザキ。快楽と頽廃にまみれたその半生を取材し始めた女性ジャーナリスト・ミチコは、やがてヤザキの独白に魅せられ、性愛の幻想に呑み込まれる。二人が行きつく先は果たして―。

■感想
インテリで人生の機微をある程度わかっているミチコであっても、得体の知れないヤザキに、知らず知らずのうちに虜になっていく。その魅力の原因はいったい何なのだろうか。物語の大半をヤザキの独白が占めている本作。ヤザキという人間の一端を理解することができるのだが、そこに憧れや賞賛の気分はない。別世界の人間の勝手な独白。それもこちらが意図した質問からかけ離れるようなことばかりを繰り返すヤザキ。これがヤザキの常套手段なのかもしれない。読んでいる間中、この独白がいつまで続くのか、そんなことばかり考えていた。

ヤザキへインタビューすることになったミチコ。自然とヤザキに惹かれていることに気づきながらも、理性的にはどこかで抵抗している。理性をも超えて相手を引き付ける何かというのは、いったいどんなものなのだろうか。ヤザキが動物的なフェロモンを辺りに撒き散らしているのだろうか。それとも、何か薬物的なもので、相手に催眠術をかけるような類なのだろうか。そのあたりの描写は一切描かれてはいないが、すんなり納得できるのは薬物関係だ。物語中に頻繁に出てくる酒を飲む描写。そこに何かヒントがあるような気がした。

ヤザキとミチコ。二人が旅するメキシコで、その後はいったいどうなるのか。最後は暗示的想像で終わっている本作。ミチコの今後の行く末は、良いほうには傾かないような気がしてならない。この結末を読んで核心したのは、やはりヤザキが薬物と催眠術でミチコを虜にし、そのままメキシコで臓器売買の道具としただけなのだろうと…。もちろん、そんな結末は一切描かれていないが、物語のトーンはその結末が似合うような気がした。

相変わらず実験的というか、普通ではない作品が多い作者。本作はまだマシなほうかもしれない。



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