マルタのやさしい刺繍


 2010.7.22  保守的な伝統を打ち破れ 【マルタのやさしい刺繍】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
勝手なイメージでは、村の伝統を守るのは老人たちで、それを崩そうとするのは若者たちだと思っていたが、本作はまったく逆だ。充実した人生をおくるために保守的な伝統を打ち破り、自由に夢を追いかける。それがエネルギー溢れる若者がやるのではなく、80才の老人たちがやるから面白い。神父の息子を持ちながら、村の伝統に反するランジェリーショップをオープンさせようとするマルタ。友人たちと共に、一つのことに向かってひた走る姿は、見ていてなんだか楽しくなる。口うるさい外野たちを無視して好きなことを始める姿は勇気づけられる。最後には、しっかりと周りの理解が得られ、ハッピーエンドとなるのもよかった。保守的な世界を打ち破るのが老人たちというのはなんだか楽しくなる。

■ストーリー

スイスの小さな村、トループ村に住む80才のマルタは、最愛の夫に先立たれ生きる気力をなくし、意気消沈しながら毎日をただ何となく過ごしていた。そんなある日、彼女は忘れかけていた若かりし頃の夢、“自分でデザインして刺繍をした、ランジェリー・ショップをオープンさせること”を思い出す。しかし保守的な村では、マルタの夢はただ周りから冷笑され軽蔑されるだけ。それでもマルタは友人3人とともに夢を現実のものとするために動き出す。スイスの伝統的な小さな村に広がる、夢に向かって頑張るマルタと彼女を支える仲間たちの夢と希望の輪。マルタの刺繍が、人々の心をやさしくあたたかく紡いでゆく―。

■感想
最愛の夫に先立たれ、意気消沈したマルタが新たな生きがいを見つけた。ランジェリーショップという保守的な村にはおよそ似合わない店と、派手なラインナップ。そうなると、保守的な村人たちから目の敵にされるのは当然のことだろう。ただ、皆が反対するわけではなく、アメリカかぶれの友達の助けで店をオープンさせる。息子が神父で、伝統を重んじる村中が知り合いのような場所では奇抜なことをやればすぐに目立ってしまう。この村の人間関係が秀逸で、うまいバランスで成り立っている。マルタを含む老婆四人が、それぞれの生き方を探るのも平行して物語のポイントとなっている。

老人たちはおとなしく部屋に引きこもっていればいい。そんなメッセージを発する地域リーダーの男や息子たち。それに反して老人たちは生きがいを見つけようと新しいことを始める。この老人たち対、伝統を守る者たちの奇妙な対立関係がうっすらとだが浮かび上がってくる。伝統に縛られつつも、皆どこか心の奥底では新しいことをやりたいと思っている。ラスト間近では、心の鎖を思いっきり引きちぎるように、皆抑圧された思いを発散させている。そして、それが良い方向へと進んでいく。

マルタを囲む老女たちが良い味を出している。それぞれがそれぞれの考えを持っており、皆手放しでマルタを応援するわけではない。どこかで自分も変わりたいと思っている。この老女たちを通じて、様々な新しいことを始めたい老人たちが協力し合う。伝統を守る古臭い大人たちだけが、蚊帳の外となり若者と老人が新しい考えを持つ。最後には伝統的なお祭りの中で、とんでもないことが始まってしまう。しっかりと練りこまれたシナリオと老女たちのエネルギッシュな行動。ハッピーエンドとなり、さらにはよくわからない元気をもらえる作品だ。

何かを始めるのに、遅すぎるなんてことはない。



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