まひるの月を追いかけて 恩田陸


2010.9.12  異母兄との禁断の愛の物語? 【まひるの月を追いかけて】

                     
■ヒトコト感想
異母兄を探しに兄の彼女と二人旅に出る。旅先が奈良。神社仏閣をめぐる旅は奇妙な方向へと流れていく。物語の全体を通して何か裏があるぞと臭わせながら、何もなく終わっている。物語の鍵になると思われた童謡のたぐいも、結局何の目的があったのかわからない。異母兄をめぐる女の嫉妬と言い換えることができるかもしれないが、物語の深みはない。奈良が好きで、神社や仏像に興味がある人にとっては、それなりに楽しめるかもしれない。数々の伏線が結局何の意味も持たないとわかった時には愕然とした。ラストに大きな謎を明かすような展開だが、特別な驚きはない。この世に嫌気が差した人々の、現実逃避の物語のようにも思えてきた。

■ストーリー

異母兄が奈良で消息を絶った。たったの二度しか会ったことがない兄の彼女に誘われて、私は研吾を捜す旅に出る。早春の橿原神宮、藤原京跡、今井、明日香…。旅が進むにつれ、次々と明らかになる事実。それは真実なのか嘘なのか。旅と物語の行き着く先は―。

■感想
失踪したと思われた異母兄が登場してから雰囲気がガラリと変わる。それまでは、何か大きな事件があるのか、不思議な出来事なのかという期待と不安が入り混じった気持ちで読んでいた。あいまに登場する意味ありげな童謡が興味深く、この童謡に関連した何かがあるのではないかと思ってしまう。それが、異母兄が登場し、なんとなく物語の全体像が見えてくると、あとはひたすら奈良で神社や仏像めぐりをするだけの物語となっている。異母兄が遠くへ行く理由も、意味深だがそれほどの驚きはなかった。

異母兄の苦悩。これが何によってもたらされた苦悩なのか、読者にとっては最後まで曖昧なままだ。色恋に悩んでか、それともこの世で生活することすべてに悩んでいたのか。メインである三人がどこか心が病んでいるようであり、人生に対して諦めの気持ちが漂っている。異母兄が大事にしていた手帳や、親しい人に撮られたと思われる写真など、何かがありそうな材料はある。しかし、それが最後に大きな仕掛けとなって驚かされるということはない。物語全体がやけに平板に感じてしまった。

嘘か本当か、物語は嘘から始まり、主人公と同じく何が本当で何か嘘なのかわからなくなる。もしかしたら、最後の最後にすべてが嘘だったという大どんでん返しがあるのではないかと思ったが、そうもならない。何のための嘘なのか、何が真実なのか、ラストではそれなりに説明されているが、理由としてはあまり納得できなかった。異母兄というポジションだけに、禁断の愛の物語といえるかもしれない。禁断の愛というと誰もが想像するパターンがあり、それを誘導するような描写もある。しかし、結末は違っている。予想外のオチのはずがそれほど驚かなかったのはなぜだろうか。

奈良好きか、もしくわ仏像好きにはお勧めかもしれない。



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