ライン 村上龍


2008.8.18  電波さんの典型だ 【ライン】

                     
■ヒトコト感想
コードを見るだけでライン上の会話が聞こえる女。まあ、これが俗に言う”電波さん”なのだろう。精神に問題があると思われる登場人物たちが数珠繋ぎにおり成す物語。まっとうな人間にとっては、まったく理解できない行動を当たり前のように行う人々。理解できない行動を目の当たりにすると、自分とはまったく別世界の人間だと思うことがあるが、まさにその感覚かもしれない。物語に登場する人々の行動にはまったく理解できず、それでいて、興味も持てない。身近にいたならば、確実に距離を置いていることだろう。まったく蚊帳の外の状態で見る分には、少しは楽しめるかもしれないが、本作を読んでいる間中、違和感を感じまくりだった。

■ストーリー

受話器のコードを見るだけで、ライン上で交わされる会話が聞こえる女がいるという。半殺しにされたSM嬢、男の暴力から逃れられない看護婦、IQ170のウエイター、恋人を殺したキャリアウーマン。男女の性とプライドとトラウマが、次々に現代日本の光と闇に溶けていく。

■感想
プライドやトラウマ。登場人物たちの心情が語られている場面もあるが、どうにも理解できあなかった。もし、自分の精神に異常が現れたときには、本作をそのまますんなりと受け入れることができるのだろうか。一見普通に見える人々も、隠れた部分では異常さを露呈している。ライン上の会話を聞ける女にしても、IQ170のウエイターにしても、もし、自分の思いを他人にまくし立てるようなことがあった場合、とたんに異常者扱いされることだろう。特にラインの会話が聞こえるなど、典型的な”電波さん”だと思った。

この手の人々が存在するのは、日本の闇の部分なのだろうか。少なくとも、昔から存在していたはずだが、コミュニティから隠されていたために、表に出なかっただけだろう。現代の日本であれば、作家が作品にしたり、ネット上で主張したり、様々な表現方法がある。恐らく作者も綿密な取材を元に本作を書き上げたのだろう。この手の作品が得意な作者だけに、読者もそれほど驚きを感じないのかもしれない。ある意味、耐性ができるというのは、良いことなのかもしれない。これからの社会は、何かを排除するのではなく、受け入れていくことが必要なのだろうか。

一つのエピソードから次のエピソードへつなぐ役割は登場人物たちが引き継いでいく。数珠繋ぎに繋がる物語には、まともな人間は誰一人として存在しない。読んでいると、自分もその中に取り込まれてしまいそうな気分にさえなってくる。異常なことが普通になり、普通なことが異常のように、何の変哲もない平凡な暮らしが、どこかおかしいような気にさえなってくる。あまりのめりこみすぎると、取り返しがつかなくなるような、そんな気分にさえなってきた。

取り込まれるような気分になるのは、作品がすぐれている証拠なのだろうか。



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