球形の季節 恩田陸


2010.3.29  オカルトを超えた能力 【球形の季節】

                     
■ヒトコト感想
どこから広まったかわからない奇妙な噂話が現実となる。噂が現実となる過程や、自然発生する噂など、その奇妙さに引き付けられる部分はある。噂が現実となるトリックや、事件の黒幕的人物の雰囲気などもオカルトちっくな展開はしっかりと読み応えがある。そのままオカルト的な噂の真相を、科学的に現実的な答えを出していれば何の問題もなかったのだが、本作はそうはならなかった。後半からは、なんともいえない奇妙な”場所”が登場し、そこにあらゆる答えが集約されてしまう。この超能力的な何かを事件に対する答えとするのは、どうしても納得ができない。もっと前にちゃんとした答えを導きだしていたはずなのに、それをさらに上回る強烈で不思議な世界が存在している。この結末に納得できるだろうか。

■ストーリー

四つの高校が居並ぶ、東北のある町で奇妙な噂が広がった。「地歴研」のメンバーは、その出所を追跡調査する。やがて噂どおり、一人の女生徒が姿を消した。町なかでは金平糖のおまじないが流行り、生徒たちは新たな噂に身を震わせていた…。何かが起きていた。退屈な日常、管理された学校、眠った町。全てを裁こうとする超越的な力が、いま最後の噂を発信した!新鋭の学園モダンホラー。

■感想
隣接する高校の生徒たちの間で奇妙な噂が広がる。やけに具体的でしっかりとした噂だ。ただ、噂の当事者が誰なのか、苗字だけが手がかりとなり、どうなるかも曖昧な噂。そんな噂が、しっかりと噂どおりの日付で噂が実現される。このオカルトちっくな流れから、実は裏ではしっかりと計算された現実的な犯人が存在するという流れは好きだ。特にオカルト色が強ければ強いほど、どうやっても現実的な答えをだせそうにないならばなおさらそう思う。本作も最初はその流れのような感じだったが、後半からまったく様変わりすることになる。

噂を実現させるために、どのような仕掛けがあったのか。それらは中盤で明らかとなるが、ほとんど重要な要素ではなくなっている。鍵となる人物が多数登場するため、目移りするというのもある。それに、事件の黒幕的扱いの人物が、あまりインパクトがないときている。ラストに近づくにつれ、オカルト色が強くなり、その元凶でもあるはずの男は、超越的な力を持っている。なんだか、すべてをこの超越的な力に集約してしまうと、今まで積み重ねてきた現実的な考証がすべて水の泡になってしまうような気がした。

結局最後まで読んでも超越的な力の理由や、はっきりとした結末は描かれていない。あとは読者にすべてをゆだねたのだろうか。頭の回転が早く、人生や社会に対して嫌気がさしている人物が事件を引き起こす。この定番的なキャラクター設定と、さらには全てを超越するような特殊な力を持っている。なんでもありならば、全てがどうでもよくなってしまう。ラストに大きな衝撃が起きるわけでもないので、なんだか少し消化不良のようにも感じてしまう。

前半から中盤にかけて、謎を提示する部分まではものすごくよかった。



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