共生虫 村上龍


2008.9.11  引きこもりの心理状態 【共生虫】

                     
■ヒトコト感想
引きこもりの心理状態を描いた作品。恐らく実際に引きこもった人でなければ、味わうことのできない感覚を描いている作品なのだろう。誇大妄想に被害妄想。客観的に見ると、本作のウエハラが経験した出来事がすべて「虫」によって引き起こされたことなのか、それともすべて妄想だったのかうかがい知ることはできない。ただ、引きこもる異常心理状態というのを端的にあらわしている作品なのかもしれない。実際に引きこもり経験者からすると、とんでもなく大間違いだと感じるかもしれない。すべてがすべて当てはまるわけではないが、ほんの少しでも共感できる思いというのはあるかもしれない。淡々と語られる暴力描写に鳥肌がたってしまった。

■ストーリー

体内に謎の「虫」を宿した、引きこもり青年ウエハラ。彼はネットを通じ、インターバイオと名乗るグループから、その虫が殺戮と種の絶滅を司る「共生虫」であると教えられる。選ばれた存在であることを自覚した彼は、生贄を求めて外の世界に飛び出してゆくのだが……!?

■感想
体内に謎の「虫」を宿すことがはたして真実なのか、妄想なのか。否定も肯定もできないが、本作のウエハラの心理状態が正常でないということだけはわかった。一般的に引きこもるには何かしらのきっかけがあるものだが、本作のようなパターンがあるのだろうか。今となっては社会的に引きこもりというのが認知されてはいるが、原因は様々だろう。体内に「虫」がいるから引きこもるなんてことを言えば、たちまち山奥に隔離された病院へ入れられることだろう。

ネット社会と引きこもりの繋がりを描いている本作。謎の組織すら正常ではないように思えるこの流れと、ウエハラの行動を促進させるような周りの人々。すべてが異常に思えてしかたがなかった。作者的には社会の闇の部分を描こうとしているのかもしれないが、あまりに行き過ぎた行為のため、リアリティを感じることができなかった。これでは、ただの精神的に病んだ人々のおかしな行動を描いているようにしか思えなかった。ただ、そこには本人にしかわからない理由があり、それを描いていると言われれば、妙に納得してしまう。

何の感情もなく、突発的な暴力へと進むウエハラ。この行動だけは、ものすごく鳥肌がたった。暴力行為に及んでいる間のウエハラの頭の中には、自分の行動を客観的に見ていながらも、淡々と行動を続ける恐ろしさ。どこか他人事でありながら、先のことを考えない、圧倒的な無神経さ。ネットの世界に入り浸ったひ弱な青年が、無表情でバットを振り回す姿が頭の中に思い浮かんでしまった。そして、その映像はどこにでも起こりうることのように思えてしまった。ネット、引きこもり、家庭内暴力。全ては繋がっているような気がした。

引きこもりの心理状態がこうだと言われて、納得できるものではないが、ありえそうなのが恐ろしい。



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