朽ちた樹々の枝の下で 真保祐一


2010.7.15  必然性のないこだわり 【朽ちた樹々の枝の下で】

                     
■ヒトコト感想
夜明け前の森で救出した女性が、不可解な姿の消し方をした。そのことをきっかけとして、自衛隊の闇に切り込もうとする男。なんだか随分強引というか、登場人物たちの行動にまったく必然性を感じることができなかった。自衛隊を調べる女にしても、そこまでの執念で調べるにはそれなりの理由が必要だ。理由は説明されているが、まったく納得はできない。ラストのオチにしても、それほど衝撃的なものではなく、これまで積み重ねてきた調査の意味はなんだったのかと思ってしまう。あえてここまで必然性をなくしたのか。男が死んだ妻のことを回想する場面が多数でてくることを考えると、無理矢理理由付けをしようと頑張りを感じることができる。読み終わってもすっきりしなかった。

■ストーリー

妻を事故で失い札幌を離れ森林作業員となった男が、自衛隊演習場と隣接する夜明け前の森で救出した女性は、謎を残し病院から逃亡する。女性を捜し真実を突き止めることに己れの再起をかけ調査を始めた直後、落とし穴などの罠が仲間を襲う…。

■感想
ただの森林作業員が、一度助けただけの女性の身を案じてここまでやるだろうか。無理矢理仕事を休み調査し、さらには自分の命さえも危険にさらしている。ある程度きな臭い雰囲気が漂ってくれば、そこで手を引くのが普通だろう。本作の男は、なぜか執拗に女が調べていることに拘る。自分の亡くした妻のことを考え、女を助け出そうとする。そこにはっきりとした繋がりはない。そのため、男の執念あふれる行動が何を原動力としているのか、まったく理解できず、不自然でしょうがなかった。

森林作業員だけでなく、怪しげな行動をとる女にしてもそうだ。元恋人の真の姿を探るために、一人の女性がここまでするだろうか。ただ机上で調べるだけでなく、実際に自衛隊の演習場に忍び込み、命の危険をかえりみずに調べようとする。それほどまでに女を動かすのは何なのだろうか。ラストにはそれらしき説明がされているが、到底納得できるものではない。不発弾の横流しというちょっとした事件の裏にはどういった大きな事件があるのか。国家的な陰謀でもあるのか。ラストに至るまでの強烈な情報統制から、とんでもなく巨大な力が関わっているような気がした。

結局最後まで読み終わってもまったくすっきりしない。事件の本当の姿はわからずじまいで、登場人物たちの推測から想像するしかない。はっきりとした答えが示されないため、それまで力を注いできた男と女の二人は、ただ、無駄な努力をしていたようにしか思えなかった。巨大な力はあるのか、ないのか。もしかしたら国外の勢力が何か関わっているのでは、とまで思ったがそこまでスケールは大きくなかった。森林作業員が主人公というのは新しいと思うが、周りの事件があまりにショボすぎるように感じられた。

スケールが大きいようにみせかけて小さい、というオチだ。



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