熊の場所 舞城王太郎


2010.11.8  残酷描写抜きには語れない 【熊の場所】

                     
■ヒトコト感想
強烈なインパクトは相変わらずだが、どこか残虐性の中に文学の香りを感じてしまう。強引なミステリーは多少緩和されたが、強引な部分はある。それでも、物語中に登場するちょっとしたエピソードにハマってしまう。特に表題作でもある「熊の場所」はホラー風な雰囲気を持ち合わせながらも、物語として面白さが集約されている。ふと感じたのは、全盛期の乙一に近いのではないかということだった。読んでいて辛くなるような残酷描写だが、それがどこかホンワカとした雰囲気に包まれている。作者の文体の影響もあるのだろうが、無理矢理強引なミステリーの長編よりも、本作のようにすっきりとした短編の方が良い。短編にも関わらず頭の中にしっかりと残る作品ばかりだ。

■ストーリー

猫殺しの少年「まー君」と僕はいかにして特別な友情を築いたのか(『熊の場所』)。おんぼろチャリで駅周辺を徘徊する性格破綻者はゴッサムシティのヒーローとは程遠かった(『バット男』)。ナイスバデイの苦学生であるわたしが恋人哲也のためにやったこと(『ピコーン!』)。

■感想
短編集となると、よほどインパクトがない限り、あっさりと内容が頭から抜け落ちてしまう場合がある。本作に限るとそんなことは絶対にありえない。作者独特の文体で、強烈な物語を描く。かならず登場してくる残酷描写と、意味のわからないキャラクターたち。何か教訓めいたことを臭わせる「バット男」もそうだが、「ピコーン!」にしてもバックグラウンドのストーリーに惹かれてしまう。メインの謎や、トリックはぶっ飛びすぎており、なかなかついていくことができないが、それ以外の部分はすばらしい。キャラクター描写がありえないキャラのはずなのに、読んでいくうちにキャラに入りこんでしまうから不思議だ。

「熊の場所」でのなんだかよくわからない不思議な特殊能力や、物語の核となる残酷描写など、どこか乙一を連想させる作品だ。ありえないような残酷描写がいつ登場してくるのかとドキドキしながら、ただ作中の登場人物が冷静に受け入れているので、たいしたことがないように感じてしまう。熊の場所というタイトルの由来となったエピソードが秀逸なため、この手の作品ではめずらしく、なんだか元気を貰い、勇気をだして行動することが重要だと思わせる何かがある。ホラーなのかミステリーなのか、ミステリーの要素を重要視しなければ、十分楽しめる作品だ。

「ピコーン!」は究極にくだらなく感じるが、後半からはまたまた残酷な場面が登場する。物理法則を無視したミステリーではあるが、そんなことを吹き飛ばすパワーがある。単純に哲也とのよくわからない恋人話で終わらせることもできたのだろうが、強引にミステリーの要素を追加している。ふざけすぎのようなキャラクターたちばかりだが、その内面は真剣そのもの。何か一つのことに対して真剣になるということが大事だと言いたいのだろうか。おそらくそんなテーマはないと思うが、ジワジワと伝わってくるメッセージ性はある。

すべての短編に必ず登場する残酷描写。もはや作者の作品には欠かすことのできない重要なパーツなのかもしれない。




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