今夜は眠れない 宮部みゆき


2009.6.21  中学生らしからぬ悩み 【今夜は眠れない】

                     
■ヒトコト感想
平凡な家庭に育つ中学生。そんな中学生の家庭に突然、五億円もの金が転がり込むことに…。世間の視線やご近所さんたちの態度は豹変し、見知らぬ人からいたずら電話までかかってくる始末。さて、この先、この中学生はどうなることやら…。という中学生目線の作品。中学生目線ということで、考えることは単純だ。しかし、物事の真実を暴こうと、探偵まがいのことまではじめる。ありえない展開でありながら、中学生っぽい?思考原理、かと思えば妙に大人びていたり。この年代は難しいのだが、本作の二人の中学生にかぎっては、好感がもてた。一家に五億もの大金が転がり込んできたら、中学生ならば大喜びでゲームを買いたいとはしゃぐところだろう。本作ではそのような描写がいっさいない。そればかりか、両親の行く末までも案じてしまう。考え方が大人だ。

■ストーリー

サッカー少年の僕と両親、平凡なはずの一家に突如暗雲が。「放浪の相場師」と呼ばれた男が、母さんに五億円を遺贈したのだ。お隣さんや同級生の態度が変わり、見知らぬ人からの嫌がらせが殺到、男と母さんの関係を疑う父さんは家出―相場師はなぜ母さんに大金を遺したのか?壊れかけた家族の絆を取り戻すため、僕は親友で将棋部のエースの島崎と、真相究明に乗り出した…。

■感想
平凡な中学生の家庭の母親に、五億円もの金がころがりこんでくれば、普通ならばそのことを単純に喜ぶだけだろう。周りの雑音があるにせよ、それはほとんどがうらやましさからくる、やっかみだ。そんな幸運な家庭に育った中学生だが、事態はそれほど単純ではなく、中学生には厳しい試練が待ち構えている。中学生くらいになると、両親の不仲には人一倍敏感になる時期だろう。特に浮気ともなれば、正常な精神ではいられなはずだ。それが、本作の中学生は事実を冷静に受け止めて、たとえ父親の浮気相手と出合ったとしても、冷静に対処している。この時点で、すでに中学生ばなれしている。

大人びた中学生というのは浮きがちだが、本作にはさらに上手の島崎という親友がいる。この島崎のおかげで随分助けられていると思う。作中でも出ていたが、島崎がホームズで、狂言回し的な役割であるワトソンを本作の中学生は演じているようでもあった。自分が父親の子供ではないかもしれないという可能性をつきつけられたとき、普通の中学生ならばすんなりと受け止めることはできないだろう。本作では、受け止めただけでなく、自分で本当の父親を探し出そうとしている。これほどアグレッシブで強い中学生はありえない。

ミステリー的には特別驚くこともなく、淡々と進むような感じだ。ただ、中学生的な会話が端々にでてくるので、ほほえましく読むことができる。中学生では入れない場所や、中学生では簡単に聞き込みができないということが、たくみな制約条件となっており、簡単には事件の真相を探ることができないようになっている。旅費がどうだとか、部活を休めないだとか、中学生ならではの問題もある。中学生らしい悩みというのはまったく見えてこないが、中学生らしさはその言葉遣いから感じることができる。それにしても、小学校高学年の女の子が好きだといってロリコンというのはどうなのか。中学生にとっては1,2歳しか歳は変わらないだろう。

ミステリー的な面白さよりも、ほのぼのさを楽しむ作品だ。




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