堪忍箱 宮部みゆき


2009.8.18  日常を描いた時代小説 【堪忍箱】

                     
■ヒトコト感想
日常の不思議や奇妙な出来事をつづる時代小説。ミステリー的な導入部分はどの短編もすばらしいと思う。何か奇妙なことが起きているのではないか。何か因縁めいたものがあるのではないか。作者の他作品には霊的なものをタネとして物語をつづることがある。本作もその類かと思いきや、違っていた。ほぼすべてが結末をはっきりとは明記せずに、読者にその後を想像させようとしている。「堪忍箱」であっても、箱の中身はいったい何なのか。最後までそれは明らかにならない。ミステリー好きとしては、はっきりとオチをつけてもらわないと気がすまないというのがある。そのため、読み終わってもなんとなくだが消化不良の感がある。

■ストーリー

蓋を開けたら最後、この近江屋に災いが降りかかる…。決して中を見てはいけないというその黒い文箱には、喪の花・木蓮の細工が施してあった―。物言わぬ箱が、しだいに人々の心をざわめかせ、呑み込んでいく表題作。なさぬ仲の親と子が互いに秘密を抱えながらも、寄り添い、いたわり合う「お墓の下まで」。名もなき人たちの日常にひそむ一瞬の闇。人生の苦さが沁みる時代小説八篇。

■感想
時代小説の短編集。「堪忍箱」と「十六夜髑髏」は謎を明かさないまま終わっている。この2作品の印象が強いので、作品全体として、最後までしっかりとオチを示さないように思えた。他の短編では決してそんなことはないのだが、そういう印象がついてしまった。ホラーテイストで始まる堪忍箱。不思議な出来事には一体どんな理由や因縁があるのか。何かしら天狗風のように、恨みつらみが重なって、できたものなのだろうかと想像してしまう。とうとう最後にはこの箱の中身が…。というところで終わってしまう。正直、気になって仕方が無い。

「かどわかし」や「お墓の下まで」は日常に起こる出来事を、興味深く描いている。ただ、よく考えれば別になんてことない話なのかもしれない。特別なインパクトがあるわけでもなく、強く印象に残ることもない。もはや短編の宿命かもしれないが、大きな不満があるほうが、強く印象に残ったりもする。そういった意味では、「堪忍箱」の方が覚えが良い。当たり前のことを描かれ、その瞬間は楽しく読むことができても、二日もたてば頭の中からはすっきりと抜け落ちているだろう。

「敵持ち」もちょっとしたミステリー風味だが、ラストのひねりのきき具合が調度よかった。読んでいる間中、頭の中には凄腕の剣客がイメージされていただけに、ある意味裏切られた感じだ。しかし、それは嫌な裏切られ方ではない。サラリと読め、読後感はさわやかになる。通勤電車の中で読むには最適だろう。一つの短編が終わったころには、駅に到着し、頭の中はすっきりとする。理想的かもしれない。

短編ということで、時代小説初心者にとっても手をだしやすい作品だ。



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