十三番目の人格(ペルソナ)-ISOLA 貴志祐介


2010.12.20  科学とオカルトが入り混じる 【十三番目の人格(ペルソナ)-ISOLA】

                     
■ヒトコト感想
多重人格者がからんだ奇妙な出来事。阪神大震災をきっかけとして発生したイソラという人格に何か秘密があるように臭わせながら、物語は進んでいく。主人公である由香里が人の強い感情を読み取るという特殊能力があり、そのことが物語りを大きく変化させている。少女の中に発生した多重人格同士の会話までも読み取ってしまう能力によって、本作の恐怖が成り立つのだろう。単純な多重人格モノではなく、科学的な検証を交えたかと思えば、非科学的な結論に至ったりもする。心理学や臨死体験の科学的な説明など興味深い部分が多々あり、情報は盛りだくさんだ。奇妙ではっきりと正体がわからない段階でのイソラは恐ろしすぎる。

■ストーリー

賀茂由香里は、人の強い感情を読みとることができるエンパスだった。その能力を活かして阪神大震災後、ボランティアで被災者の心のケアをしていた彼女は、西宮の病院に長期入院中の森谷千尋という少女に会う。由香里は、千尋の中に複数の人格が同居しているのを目のあたりにする。このあどけない少女が多重人格障害であることに胸を痛めつつ、しだいにうちとけて幾つかの人格と言葉を交わす由香里。だがやがて、十三番目の人格「ISOLA」の出現に、彼女は身も凍る思いがした。

■感想
多重人格者と人の感情を読み取る女の対決。複数の人格が存在する少女の描写は奇妙だがインパクトがある。特に心理テストでの木を描かせる場面は、思わずその破滅的な描写に衝撃を受けてしまう。この手のテストでありえないような表現をすること自体が恐ろしい。多重人格の中に性別や年齢を超えた人格があるというのも強烈だ。そんな少女と相対することになった由香里が、人の強い感情を読み取ることができるという特殊能力によって、隠された秘密までも明らかにする。

由香里が他人の感情が流れ込むことの苦悩を述べているが、それは想像を絶するものなのだろう。知りたくもないことが、次々と頭に流れ込んでくる。精神に異常をきたしたとしてもそれはしょうがないことのように思えた。そんな由香里が多重人格で苦しむ少女に出会ったとき、どのようなことになるのか。少女の中の人格同士の会話まで感じ取る由香里だからこそ、物語には必要不可欠な要素なのだろう。あるときは科学や心理学を元にした検証がされたかと思うと、とたんにオカルト臭満載となったりもする。この変化の激しさは特徴かもしれない。

正体不明なイソラの恐ろしさは究極かもしれない。どこにいるのかわからず、突然相手の夢の中に入り込む。その正体がわかってからも怖さはおさまることはない。単純な多重人格モノではなく、複数の要素が絡みあいイソラが生まれている。大きな驚きというより、名前の意味も含めてそうだったのかと驚かされてしまう。序盤では阪神大震災のショックで生まれたものと思わせ、後半では思いもよらないところからイソラが生まれてきたことになる。科学的な説明がされてはいるが、それはイソラの不可思議さを際立たせるものでしかない。

他人の感情など、決して知りたくないと思った。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp