ジオラマ 桐野夏生


2009.11.29  ジオラマのような生活 【ジオラマ】

                     
■ヒトコト感想
どこにでもある日常のようで、少し奇妙であり、不思議な気分にさせる短編集。リアルさを感じたかと思えば、摩訶不思議な気分にもさせてくれる。短編とひと括りにできないほど、その長さにも差がある本作。印象深いのはカールシリーズやジオラマということになるのだろう。ミステリーというほどでもないが、ラストに少しの驚きがある。ジオラマに関して言えば、人の生活を盗み見ているようで、なんだか不思議な気分になった。本作を読んで何か大きな影響をうけるということはないだろう。作者があとがきでも書いているように、長編へステップアップした作品もある。ジオラマなどは、長編にすれば、さらに深く、面白い作品になるような気がした。

■ストーリー

ベルリンのガイドで生計を立てる、美貌の男、カール。地方銀行に勤める平凡な会社員、昌明。金のため男に抱かれることに疲れ始めた、カズミ。退屈な生活。上下運動を繰り返す、エレベーターのような日々。しかし、それがある時、一瞬にして終焉を迎える。彼らの目の前に現れた、まったく新しい光景。禁断の愉悦に続く道か、破滅の甘美へと流れゆく河か。累卵の如き世界に捧げる、短編集。

■感想
それぞれの短編によって長さが異なるのは珍しいことかもしれない。極端に短いかと思うと、シリーズ化されていたりもする。特にカールシリーズはベルリンという土地のイメージとあいまって、奇妙な雰囲気をかもし出している。あとがきによると、ベルリンの壁崩壊直後にドイツを訪れたということだが、そのせいか、ずいぶんと荒廃した街のような印象を持った。そんな街で観光ガイドで日銭を稼ぐカール。シリーズとしてのカールの存在が最初と最後では随分と変わったのは、ラストのオチへと繋がる流れのせいだろうか。

女性作者ということで、同性愛関連のネタがでてくると、いろいろと勘ぐってしまう。男性作家が書く同性愛ものと、女性作家が書くものではイメージが違ってくるからだ。なんとなく、男の体の描写についても変になまめかしく、美化されているようにも感じた。もしかしたら、作者の願望も入っているのか?なんてことも考えてしまった。そんなちょっと変わった作品もあったかと思うと、純粋に男と女の関係を描いた作品もある。ただ、奇をてらいたいのか、老女の話などもある。

本作の短編の中で一番印象に残るのは間違いなくジオラマだろう。マンションの上下に女をつくり、行ったり来たりの生活をする。勤めていた銀行が倒産したというのは、ただのきっかけにすぎない。読み終わったあとに考えると、随分と都合の良い話のように思えるが、読んでいる間はそのことは気にならなかった。階下に住む女は真っ赤な髪をした奇抜な女だという。銀行員にとって、最も縁のない女だと思うが、それがふとしたきっかけで、深い関係となる。ジオラマの世界と現実世界をダブらせるように、奇妙な生活を描いている。

本作のテーマは?なんて問いにはっきりと答えることはできない。それほど、様々な要素が詰まった短編集だ。




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