2009.2.12 不思議なホラー? 【石ノ目】
■ヒトコト感想
作者お得意のホラー。ただ、ホラーといっても身の毛もよだつような恐ろしさではない。ちょっと変わっていて不思議で、ハッピーエンドではない。主にブラックな話が多いのだが、作者の丁寧な文体からか、それほど悲惨に感じることはない。人が次々と石になったり、家族が次々と癌で死んだり、不思議なぬいぐるみが動きだしたり、一つとして真っ当な作品はない。どこか不思議で奇妙で、それでいて内容だけ考えると絶対に後味が良いはずないのに、悪い気はしない。読んで幸せな気分になることは決してないが、なぜか読みたくなる。他人の不幸を喜ぶ感覚ともまた違う、乙一作品ならではの感覚なのだろうか。ただ、作者の他の作品と比べると相対的には若干落ちるかもしれない。
■ストーリー
ある夏休みに私は、友人とあの山に登ることにした。私が幼い頃、あの山に一人入って消息を絶った母親の遺体を探すためだ。山には古い言い伝えがあった。曰く「石ノ目様にあったら、目を見てはいけない。見ると石になってしまう」と。そして、私たちは遭難した…。
■感想
相変わらずのブラック具合。「石ノ目」などは、誰も幸せになっておらず、そして悲惨な出来事だとしか思えない。展開的にもある程度予想できる範囲であり、驚きというのもない。ただ、なぜか惹きつけられる文体であることは間違いない。昔話風でもあり、人が石になるというショッキングな内容をさも当たり前のように語りだす登場人物たち。鳥肌がたつような恐ろしさではないが、じわりじわりと夜中に思い出すと少し怖くなったりもする。後から思い出すと、ずいぶんすごいことを書いていると思うのが、作者の作品の特徴かもしれない。
本作の中で特別印象に残っているのは「平面いぬ」だ。この作品は現代的でちょっとコミカルな感じがして単純なホラーという感じはない。しかし、作中の中ではだれよりも不幸で、その境遇を考えるとメインである犬の刺青など、どうでも良いことなのではないかとすら思えてくる。家族がみんな癌で死にかけている。普通に考えるなら、犬の刺青が何かをして、家族の癌が完治するなんていうハッピーエンドを考えてしまう。しかし、本作はその流れには絶対にいかない。家族の死をそれほど大きな出来事と感じていないようにも思えてきた。この無機質な感じは何なのだろうか。奇妙さばかりが目立った作品だ。
残りの2作品も割と普通なのかもしれない。それほど恐ろしいホラーでなければ、ほのぼのとしたハッピーエンドでもない。作者の丁寧な語り口と、難しい言い回しを使わないシンプルな文章は内容にあっているのだろう。スラスラと読め、落ちもちゃんとあり、シンプルで分かりやすい。読み終わればそれなりに頭の中には残るが、それだけだ。恐らく何週間か過ぎると、頭の中からすっきりと抜け落ちてしまうことだろう。あとがきでは、まだ20代前半の作者が書いた作品らしいが。確かに未熟さを感じる部分もあるが、今とほとんど変わっていないようにも思えた。
作者の作品は悲惨な結末であっても、どこか暖かな気持ちにさせる何かがある。本作はその原点なのだろうか。
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