人質カノン 宮部みゆき


2009.8.6  日常に潜む出来事 【人質カノン】

                     
■ヒトコト感想
なんてことない日常に潜む出来事を物語りとして構築している。読んでいると、特殊なオチや驚きをどうしても期待してしまう。本作はそんなオチに驚くようなものではなく、日常の出来事を通して人の思いを感じられるような作品となっている。何かに悩み苦しんでいたとき、もし、本作の中で同じような悩みを持つ登場人物がいたなら、きっとその悩みは解決していることだろう。ちょっと元気になり、そして前向きになれる作品。ただ、物語としてのインパクトはどうしても弱くなる。最後にもうひと山あるのか、もしくわ、大きな驚きがあればまた違っていただろう。ミステリーと言ってしまうとトリックやオチが弱いと言わざるお得ない。そう考えなければ良作なのは間違いない。

■ストーリー

「動くな」。終電帰りに寄ったコンビニで遭遇したピストル強盗は、尻ポケットから赤ちゃんの玩具、ガラガラを落として去った。事件の背後に都会人の孤独な人間模様を浮かび上がらせた表題作、タクシーの女性ドライバーが遠大な殺人計画を語る「十年計画」など、街の片隅、日常に潜むよりすぐりのミステリー七篇を収録。

■感想
日常の出来事を、ちょっとしたミステリー風に味付けを加えた本作。ミステリーとして読んでしまうと、最後のオチがなかったり、さらりとした終わり方に納得できないかもしれない。ミステリーというくくりで読むのは正直お勧めしない。ミステリーというよりも、日常の出来事を、読者が共感でき、そして元気になれるように描いているような気がした。登場人物たちは、どれもちょっと特殊で奇妙な出来事に遭遇する。その前に何かしらの悩みや問題を抱えており、陰鬱とした気持ちの中、ある出来事によって気持ちが大きく変わろうとしていく。なんだか、心癒されるようにも感じてしまった。

表題の「人質カノン」は表題になっていることもあり、最初のインパクトはある。ミステリーという枠に一番ぴったりとくる作品かもしれない。ただ、読み終わってみると、そのトリックよりも周りの人物たちのバックグラウンドを読む方がメインのようになっている。事件の経緯やミステリーとしての面白さは少ない。しかし、コンビニの常連でもある女性と少年が、事件に対してどのように考え、どう対応したのか。そのことのほうが物語りとして印象に残っている。赤ちゃんのガラガラを使って無理矢理ミステリー風にしている印象は拭い去れなかった。

その他の短編も、日常の出来事とうまく絡め、たいしたオチはないのだが、印象的な物語となっている。出てくる人物たちが、何かしら心に不安や悩みを抱え、そして考える。どことなく社会派的なにおいを感じる作品もある。現代社会の問題に鋭く切り込んでいるような作品もある。特にイジメ関係は、どうにもならないもどかしさを感じずにはいられなかった。それらの物語は、最終的に前向きな形で終わっている。そのため、読み終わるとなんだか根拠のない喜びというか、気持ち的に明るくなれた気がした。

ミステリーという固定観念を捨てて読むべき作品だ。



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