HANA-BI


 2010.11.9  精神状態によって印象が変わる 【HANA-BI】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
独特の雰囲気と俳優を真正面から撮った映像の数々。表情メインで描かれている作品なので、自然とセリフは少なくなる。全体としてストーリーに関わるセリフは少ない。意味のないヤクザの脅し文句は多少あるが、それ以外はすべて表情と音楽と周りの景色と絵によって表現されている。そのため、俳優たちの表情を読みとらなければ、今いったいどんな思いでいるのかというのがわからない。ただ、一度読みとり、ストーリーを理解すると、とんでもなく奥深いものがある。不治の病を患った妻との最後の旅行。つかの間の喜びが溢れる場面では、この後起こることを想像すると、なんともいえない悲しい気分になってくる。場面に合わせて変化していく音楽も、感動を誘発させる効果がある。見る人を選ぶが、すばらしい作品だ。

■ストーリー

不治の病に侵された妻を気にかけながらも職務に追われる刑事が、同情した仲間の好意で張り込み捜査の合間を縫って見舞いにいく。だが、そのわずかな時間に発砲事件が発生、1人が殉職し、快く送り出してくれた部下も半身不随の身になってしまう。犯人を殺して警察を辞めた彼は、治療費や遺族へ渡す金を工面するためヤクザにまで借金を重ね、やがて首が回らない状況へと陥っていく…。

■感想
仲間の刑事が半身不随となり、生きる希望をなくす。一方、妻が不治の病に犯された男はヤクザに借金し、クビが回らなくなる。そんな閉塞感溢れる中で、物語は見る人によって様々な印象を与えることだろう。明るくはないが、心に染み渡る音楽。笑顔いっぱいにはしゃぐような場面はなく、常に無表情でたたずむ登場人物たち。見る人の精神状態によっては、ものすごく暗く苦しく、救いようのない心中物語に見えるかもしれない。ある人には、希望に満ち溢れ、最後に幸せな時間を過ごすことができた、心温まる作品に感じるかもしれない。人によってかなり感じ方は変わってくるだろう。

作中に登場してくる絵にどう感じるかにも、大きな違いがあるだろう。動物や昆虫の頭だけが花になった絵。全体として奇妙で恐ろしく、原色のバックとあいまってちょっと精神に異常をきたした人が描いた絵に見えなくもない。かと思うと、すばらしい桜の風景の中にポツンと人がたたずんだ絵や、意味ありげな親子の絵など、絵に何か大きな意味を持たせているように感じられた。半身不随となった男が趣味として始めた絵が、いつのまにか生きる糧となる。生きることを決意した男と、不治の病の妻と最後の旅を決意した男。この対照的な二人が、いい味をだしている。

人物を真正面から撮ったシーンを多様する本作。そこで何かセリフをまくし立てるのではなく、ただ表情だけが写しだされている。セリフがない分、観衆の想像力に頼り、ここぞというときは、強烈な短い言葉を告げる。北野作品らしく激しい暴力描写はあるが、セリフがないぶん銃声だけが浮かび上がるように耳にこびりつく。悲壮感ただよう最後の旅行ではあるが、そこで垣間見える夫婦の心からの笑顔というのは、悲しみを感じさせるが、最後のシーンを見るとこれですべてよかったのかもしれないと思えてくる。

見る人の精神状態によって大きくとらえ方が変わってくる作品だ。



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