不安な童話 恩田陸


2010.3.3  生まれ変わりの不思議さ 【不安な童話】

                     
■ヒトコト感想
冒頭、強烈なデジャブとあらゆる条件から、女流画家の生まれ変わりだと考える古橋万由子。前半部分の引きの強さには強烈なものがある。非科学的な現象から、生まれ変わりを信じ、大昔の事件の真相を探ろうとする。この摩訶不思議な出来事を、いったいどう説明つけてくれるのか、それが楽しみで仕方がなかった。しかし、後半になるにつれ、物語の流れが明らかとなり、最終的にはなんだか煙にまかれたような気分になった。デジャブのように断片的に見え隠れする映像から事件の真相をさぐる。この手法は非常に便利で都合がよいのだが、反面物語を軽いものにしてしまっている。非科学的な能力を当たり前のように物語の鍵とするのは、どうも好きになれない。奇妙な雰囲気はすばらしいが、タネ明かしに驚くことはなかった。

■ストーリー

私は知っている、このハサミで刺し殺されるのだ―。強烈な既視感に襲われ、女流画家・高槻倫子の遺作展で意識を失った古橋万由子。彼女はその息子から「25年前に殺された母の生まれ変わり」と告げられる。時に、溢れるように広がる他人の記憶。そして発見される倫子の遺書、そこに隠されたメッセージとは…。犯人は誰なのか、その謎が明らかになる時、禁断の事実が浮かび上がる。

■感想
ミステリーとしてのポイントはおさえられている。条件が整いすぎて女流画家の生まれ変わりとしか思えない古橋万由子。過去に起こった事件を探るきっかけとなった遺書。そこに書かれている四人に手渡すべき絵。全体的に暗くおどろおどろしい雰囲気を漂わせ、何か大きな秘密があるのではないかという雰囲気はすばらしい。謎の手がかりが見えてくる中盤までは、まさにミステリーの手本というべき作品なのかもしれない。次々と登場してくるあらたな事実。それを手がかりとして、事件はより深みにはまっていくことになるのだが…。中盤以降のタネ明かしは微妙だった。

生まれ変わりの真相についてはラストに語られるとして、事件の真相は中盤で見えてくる。そこであらゆる犯人像を想像させながら、最後には意外な人物が犯人として登場する。定番かもしれないが、伏線に紛れ込ませたヒントが微妙でわかりにくかった。流れ的に犯人が誰かというのは簡単に想像つくだろう。ただ、決定的な仕掛けはわからないままだ。万由子がデジャブのように見る映像を、事件解決の手がかりとしているのだが、それも都合が良すぎるように感じられた。計算された構成というよりも、使いたいときに使える便利な道具のように思えてしょうがなかった。

結末ではしっかりと犯人を示し、事件の概要と万由子の生まれ変わりについても説明されている。そこが本作のメインなのだろうが、前半部分の引きの強さから考えると、随分とがっかりさせるタネ明かしだと感じた。細かくしっかりと説明されてはいるが、どうしてもこじつけのように感じられた。大きな驚きがあるわけでもなく、科学的に納得のいく答えのはずなのに、もっと違った驚きを求めていたのかもしれない。予想外の展開には違いないが、心は晴れなかった。

前半部分の強烈な引きの強さはすばらしい。ただ、そのテンションが中盤以降はまったく無くなっている。



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