フィジカル・インテンシティ-日本サッカーが初めて世界に曝された 村上龍


2008.11.15  10年経って変わったのか 【フィジカル・インテンシティ-日本サッカーが初めて世界に曝された】

                     
■ヒトコト感想
今からおよそ10年前の出来事が時系列に描かれている。初めて日本がW杯本戦に出場し、3敗するまでを、作者の目から見た日本サッカーを正直な気持ちで描いているようだ。今読むと、的をえたことを言っており、先見の明があるのではないかと思わせる記述がいくつもある。中田に関しても、イタリアに行く前から知り合いであり、その実力を評価している。ブレイクしたから仲良くなったというのではない、本当の友達のようだ。W杯直前に、日本代表を発表する部分であっても、作者はしきりに北沢はいらないとつぶやいていた。そして、それが現実となり、今となってはその選択は間違っていないという思われている。根っからのサッカー好きというのはもちろんのこと、日本代表にこれほどあけっぴろげに批判できる数少ない有名人の一人だろう。

■ストーリー

1998年、日本中を沸かせたフランスW杯。そこには何があったのか?日本サッカー界とメディアの無知と傲慢、危機感のなさ、情報無視、非科学的精神主義etc.。そして、中田英寿に代表される新しい日本人のスタイル。2002年W杯に必要なものは何か?サッカーという有機的なスポーツを通して「世界」を見る、刺激的な書。

■感想
もし、本作をリアルタイムに読んでいたらまた違った感想を持っていただろう。「北沢をはずすなんて!」だとか「カズは絶対に必要でしょ」などと思い、作者の意見には真っ向から対立していただろう。いざ、十年後の今、本作を読むと、作者の考え方があながち的外れではなかったということが良くわかる。日本代表のだめな部分と協会としての危機感のなさ。メディアに対しての批判は、今のメディアが変わったとは思わないので、それは引き続きの課題ということだろう。この時代から十年、日本サッカー界も大きく変わったのだが、作者はこうなることを予測していたのだろうか。実力が予想よりも上回っていたのか、それとも下回ったのか…。

中田に関する話は、すべてが納得できてしまう。中田が大成功したから言えるのかもしれないが、まだこの時点では中田がこれほどブレイクしたとは誰も想像できなかっただろう。イタリアに行ったとしても、カズのようにメディアに騒がれて終わりという可能性だってある。それを作者は中田のように世界基準でものを考えるものしか成功しないと言い切っている。結果論だが、それが正しいと証明された今となっては、本作はまさに預言書のようにすら思えてしまう

こうやって時事を扱ったエッセイを十年後に読むというのは、ある意味ルール違反だろう。そのときのテンションと、勢いによっては、納得できることなのかもしれない。ただ、時間が経った後、冷静な目で分析するというのも読み方としては間違っていないだろう。日本サッカーがこの十年でどのように変わったのか。作者が思ったとおりの流れになっているのか。サッカー人気がかなり落ち込んだ今、作者はどのように思うのか。おそらく、リアルタイムで何かしらのエッセイを書いているのだろう。しかし、それを読むのはいつになるのかわからない。また、何年かして、過去を懐かしむように読みながら、予言的内容に驚いたりするのだろうか。

これほどはっきりとメディアで日本代表批判を名指しで行うというのも、作者だけかもしれない。



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