ドミノ 恩田陸


2010.9.11  次々とつながる物語 【ドミノ】

                     
■ヒトコト感想
複数の出来事が輻輳し、まったくつながりがないようで、思わぬところにつながりが見えてくる。この手のたぐいはかなり好きだ。映画でも小説でもこのパターンには毎回はまっている。ただ、今回だけは微妙かもしれない。それぞれ別の目的を持った物語が、しだいにつながっていく面白さはあるが、一つ一つの物語にあまり魅力を感じなかった。そして、つながりもなんとなくだが予想ができた。キャラクターの描き分けはしっかりされていると思うが、印象的なキャラクターが少ない。いったい主人公は誰なのかと考えてしまった。メインとなる一本スジの通った主役を含めた話があれば、また違っていたのかもしれない。嫌いではないが、もっと面白いパターンを期待してしまった。

■ストーリー

7月のある蒸し暑い午後、営業成績の締め切り日を迎え色めき立つ生命保険会社から、差し入れ買い出しのためにOLが東京駅に向かって走りだす。ここを物語の出発点として、ミュージカルのオーディションを受ける母娘、俳句仲間とのオフ会のため初めて上京した老人、ミステリーの会の幹事長のポストを推理合戦によって決めようとする学生たち、従妹の協力のもと別れ話を成功させようともくろむ青年実業家、訪日中のホラー映画監督など、さまざまな人間が複雑に絡みあうなかで、物語は日本中を揺るがす大事件へと発展していく。

■感想
締切日に色めき立つ生命保険会社、上京した老人。オーディションを受ける親子、別れ話を告げようとする青年実業家。バラエティに富んでおり、まったく繋がりのない物語だ。それらが、いつの間にか少しづつつながっていくのは心地良いが、驚きや引き付けられる雰囲気はない。とってつけたように感じるつながりと、不自然な展開。ある程度強引に物語どうしをつなげる必要があるのはわかるが、それにしてもつながりにはもう少し自然な流れがほしかった。随分強引なように感じられた。

本作はどの物語がメインなのかよくわからないのが特徴かもしれない。一つのエピソードに重点的に力を入れるのではなく、すべてが平等なページ数となっている。そのため、全体の印象が散漫となり、核となるエピソードがないことで、視線が定まらないというのがあった。東京駅が物語の舞台であり、中心なのだが、それだけでは弱い。「とらや」の紙袋に入れられた謎の物体が次々と物語中に登場することで次へのつながりを連想させるなど、うまい部分もあるが、芯がないような気がしてならない。

多数の登場人物たちをどれだけしっかりイメージできるかによって、本作の評価も分かれてくることだろう。もし、本作のエピソードに近い経験をしていれば、すぐにのめりこめるかもしれない。まったく頭の中で想像できないとなると、正直辛い。へたしたら、誰が誰だか最後まで認識できずに終わってしまう可能性すらある。それだけ複雑な物語なのだが、一度しっかりと東京駅の映像を頭に思い浮かべ、そこで動き回るキャラクターをイメージできれば、それなりに楽しめることだろう。

好きなタイプの作品だが、その中ではちょっとワンランク下がるかもしれない。




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