第9地区


 2010.5.7  人間が悪魔にしか見えない 【第9地区】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
てっきり正体不明のエイリアンを探る物語かと思いきや、いきなりグロテスクなエイリアンが前面に登場してくる。エイリアンを難民として”第9地区”へ押し込める。これはもしかしたら、どこぞの先進国が難民を一箇所に囲い、立ち退きを迫ることへの風刺なのだろうか。エイリアンと人間たちの争い。一方的なまでに人間の理論で押さえつけられるエイリアンたち。エイリアンしか扱えない強力な武器と技術力。人類とエイリアンの中間である人物がひょんなことから登場し、物語は大きく動いていく。人間の身勝手さや浅ましさをこれでもかと表現している作品。最初はグロテスクで嫌悪感しか覚えなかったエイリアンたちも、最後には心優しいすばらしい生物のように見えてくる。

■ストーリー

難民として生活するエイリアンと人間が暮らす共同居住区“第9地区”はスラムと化していた。超国家機関MNUはエイリアンの強制移住を決定し、ヴィカスという男を現場責任者に指名する。彼は立ち退きの通達をして回るうち、知らずに人類とエイリアンの歴史を変える大事件の引き金を引いてしまう―。

■感想
人間目線で始まる物語。エイリアンはグロテスクで危険なものという印象操作から始まり、人間はそのエイリアンたちを守ってやるすばらしい知的生物だという流れ。エイリアンたちの無知なる暴れっぷりと理路整然として立ち退きを迫る人間たち。スラムでの行動はどっちもどっちだが、明らかにエゴの塊である人間が正しいような撮りかたをしている。その中でも、火炎放射器で小屋を焼き、無理矢理契約書にサインをさせ、立ち退かせる。その強引な手法は、何もエイリアンに対してではなく、世界中の難民に対して同じことをやっているような気がしてならない。

強力な武器を持つエイリアンたち。最初に疑問に思ったのは、なぜエイリアンたちはこの武器を使わなかったのかということだ。それは物語が進めばおのずとわかってくることだった。エイリアンたちは争いを好まず、ただ自分の星に帰りたいだけだった。そのエイリアンたちが、自分の仲間が心無い人間たちの実験台になっていると知ったとき。呆然と立ち尽くすエイリアンの姿が全てを物語っている。その気になれば、地球人の軍隊など簡単に殲滅する力はあるのだろうが、それをしないエイリアンたち。これでは人間はとんでもない悪魔にしか見えない。

人間とエイリアンの中間に位置する男。この男の周りに群がる人々が全てを物語っている。軍隊、ギャング。男の細胞を得るために激しい殺し合いを繰り返す。その中でただ争いを好まず星に帰りたいだけのエイリアンには、表情がないはずなのに、画面からは悲しみがにじみでていた。人間の身勝手さと、エゴ。エイリアンというありえない題材を使いながらも、人間の本質を描いているような本作。多少グロテスクな場面はあるが、強烈なインパクトを残すのは、エイリアンのために一人戦う男の姿だ。

予想外な展開だが、目を離すことができなかった。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp