防壁 真保祐一


2010.8.26  仕事に命を賭ける男たち 【防壁】

                     
■ヒトコト感想
特殊な職業に就くものたちの短編集。要人警護という危険が伴う仕事に浮かび上がる疑惑。特殊な職業ならではのミステリー。すべての短編が、まず主人公の疑いからスタートする。同僚が怪我した原因は…。自分の勤務時間に頻繁に起こる火事の原因は…。いったん常識的な判断をし、その後、職業ならではの推測をする。そして、最後にはその疑いが正しいのか正しくないのかが判明する。登場人物たちに明るく幸せな雰囲気はない。どこか職業に真剣になるあまり、他のことを犠牲にしてきた人生のように思えてくる。自分の職業にプライドを持つ男たちが、ある一つの疑問にぶち当たったとき、疑わなくてもいい人を疑い、真実が覆い隠されていく。命を賭けた男たちのミステリーだ。

■ストーリー

警視庁警護課員として佐崎が警護する政府要人が襲撃された。凶弾に倒れたのは同僚のSP、義兄でもある大橋だった。狙撃犯は誰か。佐崎の脳裏に浮かんだ予想外の人物とは!?圧倒的なディテイルとリアリティで描く日本の要人警護の実態。生命の危険を顧みず、自らの誇りを懸けて任務に就く男たちの物語。

■感想
要人警護中に同僚が怪我をする。その怪我が誰かの企みではないかと疑う男。自らの生命をかえりみず、要人を守る職業ならばこそ成立する疑いなのだが、男は疑いの気持ちに取り付かれる。どことなく横山秀夫作品のように、未来に対してなんの期待や希望を持たず、ただ自分の仕事にだけ心血を注ぐ男というイメージだ。SPの配置位置によって危険度が変わってくる。特殊業務だけに、その家族たちの思いというのがどうなっていくのか。それらがメインとなり、ミステリーとうまく絡めている。

地雷撤去や海難救助など、一歩間違えれば簡単に死が訪れるような職業において、周りは特殊な目で見るだろう。印象的だったのは、地雷撤去を職業とは言い出せないという場面だ。確かに何気なく考えてはいるが、自分の身内が職業としていると聞けば、かなり心配になるのは間違いない。一般的な職業に比べ遥かに危険度が高い。どれだけ技術的に進歩し、安全だとわかっていてもイメージは拭い去れない。中でもダントツなのは間違いなく地雷撤去作業員だ。

ミステリーの要素は周りの人間の思いが絡むことによって成立する。偶然の一致ではない何かが起きたとき、人はそれを仕組まれたものではないかと考える。男たちは、ある一つの出来事に出くわした時、自分に都合の良い方向か、または自分を貶める誰かの仕業だと考える。実際には、男たちを心配した上での出来事であったり、未来を考えてのことだったりする。物語の流れとしては、ラストに真実がはっきりとし、それによって大きな感動を引き起こそうとしている。短編だけにサラリとした印象は拭えないが、特殊な職業についての描写は濃密だ。

本作を読めば、知られざる世界を垣間見ることができるだろう。




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