ベンジャミン・バトン 数奇な人生


 2009.5.30  応援したくなる人生 【ベンジャミン・バトン 数奇な人生】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
老人で生まれ、歳をかさねるごとに若返っていく。不思議で奇妙な話だが、本作を見るとなんだか妙に納得でき、そしてベンジャミンの人生を応援したくなる。特に幼少期、本物の老人たちに囲まれて生活する描写には、何かを考えさせられる。生まれてからの青春時代を老人で過ごす意義。そこには、普通の若者にはない優しさと、普通の老人にはないチャレンジ精神のようなものが感じられた。ありえない数奇な人生のはずが、いつのまにかそれが普通となりベンジャミンに感情移入し、その人生を最後まで見とどけけようとしてしまう。ベンジャミンが出会う様々な人々は、最初こそ奇妙な表情をするが、すべての人がベンジャミンを受け入れる。知人たちが歳をとっていく中で自分だけがどんどん若返っていく。その悲しみとせつなさが画面からにじみ出ていた。

■ストーリー

80代の男性として誕生し、そこから徐々に若返っていく運命のもとに生まれた男ベンジャミン・バトン(ブラッド・ピット)。時間の流れを止められず、誰とも違う数奇な人生を歩まなくてはならない彼は、愛する人との出会いと別れを経験し、人生の喜びや死の悲しみを知りながら、時間を刻んでいくが……。

■感想
生まれたときから老人という奇妙な状態のベンジャミン。楽しいはずの青春時代も老人であれば楽しめない。ヨボヨボでボロボロのベンジャミンの姿には哀愁を感じずにはいられない。外見は老人だが、中身は子供。このギャップを感じさせるシーンがベンジャミンに好感をもたせるのだろう。自分の境遇を知りながら、愛する人と出会い、そして別れる。人生の縮図のようだが、逆回しされた人生は人とは違う数奇な人生でしかない。自分ひとりがどんどん若返り、周りの知人たちがどんどん年老いていく。そのときのベンジャミンの心情を思うと、涙なくしては見ることができない作品だろう。

ベンジャミンの人生の中で、とりわけ興味深いのは序盤の老人のシーンだ。心は少年でありながら、外見はヨボヨボの老人となる。同年代の少女に恋をし、知らない世界への好奇心も旺盛となる。この見た目と心のギャップが周りの人々との関係を通して、とてもすばらしく描かれている。特に女性経験が今までに一度もないというくだり。外見からすれば老人なのだから、それは信じられないことなのだろう。しかし、中身は純粋な少年なのだからそれも当然のことだ。ベンジャミンの周りの人々は、みな好人物で悪い者はいない。ヨボヨボと歩くベンジャミンを見ると、絶対に幸せになってほしい、そんな気持ちにさせる何かがある。

老人から一変し、青年となるベンジャミン。この時代では、もはや自分の数奇な人生を受け入れ、ある意味悟りを開いたようにも感じられた。愛する人との別れ。自分の娘との出会い。青年期であれば、当たり前の青年が経験することに、豊富な人生経験がプラスされ、また違ったエピソードがあるはずなのだが、それらはほぼ省略されている。本作では、周りの人々とベンジャミンの対比に時間が割かれている。ある程度予想できることだが、まるで自分ひとりが不老不死になったような気分なのだろう。一人取り残されたベンジャミンの悲しさは老人時代の哀愁を上回るように見えた。

一人の男の数奇な人生を見続ける時間はとても有意義なものだった。



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