バイバイ、ブラックバード 伊坂幸太郎


2010.12.7  出来すぎな出会いと別れ 【バイバイ、ブラックバード】

                     
■ヒトコト感想
連作短編集。奇妙な出会いから始まった付き合いが、突然終わりをつげる。悲しい恋愛小説かと思いきや、変にすっきりとした印象をうける。理由がよくわからず、どこに連れて行かれるかわからない状況であっても、淡々と現実を受け止める男。女に別れを告げる際も、ほとんど感情がないように感じてしまう。理不尽な別れや、どうしようもない現実など、苦しい状況にありながらどこか飄々とした態度が人間味を感じさせない。これが作者の特徴だろう。連作モノとして、何か大きなオチがあるわけではない。ただ、偶然にしては出来すぎな出会いがやけに面白い。「あれも嘘だったの?」と女たちが語るほど、不思議な出会いだが、これが作者の真骨頂だろう。

■ストーリー

「理不尽なお別れはやり切れません。でも、それでも無理やり笑って、バイバイと言うような、そういうお話を書いてみました」(伊坂幸太郎)。太宰治の未完にして絶筆となった「グッド・バイ」から想像を膨らませて創った、まったく新しい物語!

■感想
バスである場所に連れて行かれるから、女に別れを告げる。巨漢の女と共に、恋人に別れの言葉を言うのはやけにシュールだ。男の行き着く場所や、女の行動などあいかわらず不思議な雰囲気と、絶妙な比喩によって物語を不思議なものとして構築している。巨漢の女の辞書に○○という言葉がないというのが、そのまま辞書の文字を塗りつぶしているというのも独特なら、女に別れを告げる男の悲しみというのが、一切伝わってこないのも特徴だろう。女たちが別れに対し、悲しみをそれほど表現しないところからも、あえて悲しみを排除し、淡々とした雰囲気を作っているとしか思えない。

秀逸なのは男が女たちと知り合うきっかけとなったエピソードだ。普通ではありえない状況と、恋に落ちるには物足りない場面でありながら、女たちは男に恋をする。それを回想する女もそうだが、男にしても口では愛や恋だと言うが、心の中ではひどく冷静に感じられた。この男は同時に5股をやってしまうほど、行き当たりばったりな印象が強い。ウジウジと悩み苦しむのではなく、現実をあっさりと受け入れる。それも、これ以上ないほど冷静で客観的な分析つきだ。このキャラクターならばどんな悲劇であっても、読んでいて悲しみを感じることはないだろう。

理不尽でよくわからない状況の中、奇妙な巨漢の女と別れを告げる男。状況的な面白さと、特殊なキャラクターたちの面白い言動。知的な印象を植え付けられる比喩の数々で、物語はアカデミックな雰囲気すらただよってくる。さよならを告げるはずが、変に元気がでてくるのも本作の特徴かもしれない。連作だが、謎の部分は最後まで明らかにはならない。結局男はバスでどんなところへ連れて行かれるのか。いったい何をやってしまったのか。謎が解けないモヤモヤ感よりも、キャラクターの特殊さの方がインパクトが強いため、読後感は満足してしまう。

作者の独特なキャラクーが好きな人にはたまらない作品かもしれない。




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