2009.9.25 お化け屋敷的雰囲気 【あやし】
■ヒトコト感想
恐ろしさで言えば、現代が舞台になるよりも、この時代が舞台の方が趣があるかもしれない。古くから言い伝えられている怪談を読むように、寒気のする短編が多数収録されている。リアルな怖さはない。ただ、その場面を想像すると身の毛もよだつような怖さはある。お化け屋敷を舞台としたような雰囲気かもしれない。恨みつらみや因縁。特に女の執念や恨みは恐ろしいというように感じてしまう。それら以外にも、人の心に巣くう鬼をテーマとしたような作品もある。江戸の時代に生活する人々がでくわす恐怖。頭の中では定番的な映像が浮かび上がってくる。現代とはかけ離れた世界だけに、違和感をもつことはない。単発的な恐ろしさなのだろう。
■ストーリー
十四歳の銀次は木綿問屋の「大黒屋」に奉公にあがることになる。やがて店の跡取り藤一郎に縁談が起こり、話は順調にまとまりそうになるのだが、なんと女中のおはるのお腹に藤一郎との子供がいることが判明する。おはるは、二度と藤一郎に近づかないようにと店を出されることに…。しばらくして、銀次は藤一郎からおはるのところへ遣いを頼まれるのだが、おはるがいるはずの家で銀次が見たものは…。
■感想
古くから言い伝えられている逸話を読むような雰囲気かもしれない。女の執念や情念。人の嫉みや嫉妬。それらが形となって恐ろしさを表現している。この時代であればこそ、だせる雰囲気なのだろう。時代小説ならではの風習やしきたりが恐ろしさを倍増させている。特に丁稚奉公や女中に関する話が多く、現代が舞台では決して表現できない面白さとなっている。この手の流れは作者が得意とするところなので、安心して読むことができた。長さ的にも調度良く、通勤通学の片道で調度ひとつの短編を読み終えるというような感じだろうか。
読んでいる間中、遊園地などにあるお化け屋敷をイメージしてしまった。隙間風が吹きすさむ民家や、古い商家のある一室。そこに突然浮かび上がる女の首。見るたびに表情が変わり、口を真一文字に閉じていたかと思うと、大きく口を開けて笑ったりもする。まるっきりお化け屋敷の世界だ。雰囲気を匂わすだけで、そのものずばりを描かない作品が多い中、しっかりと恐怖の元凶を描写し、なおかつ霊的なものとして締めている。本作の短編はすべてその流れなので、違和感なく読むことができた。
現代を舞台として霊的なものを扱った作品ならば、どうしてもリアル感をもとめてしまう。ある意味、身近に起こりそうな恐怖はあるかもしれないが、なかなか難しいだろう。それが、最初から時代小説となると、リアルさを求めず、すんなりと入り込むことができる。作者の時代小説を読み続けていると、その作法についても慣れたもので、別作品に登場する岡っ引きなど、なじみのあるキャラクターまで登場してくる。そうなってくると、作者が描く時代小説はそれだけでちょっとした続き物のような雰囲気すらでてくる。
サラリと読める短編が恐怖を倍増させている。
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