2009.10.28 非情にショッキングな短編集 【LAST】
■ヒトコト感想
人生に行き詰った人々が行う、最後の何かを描いた短編集。ひとつひとつは非常にディープで救いようのない話もある。とりわけ、借金で追い詰められた中年男性の話がよく登場するが、気持ち的にかなり追い込まれている雰囲気がでている。ラストライドやラストジョブなど、かなり強烈で普通の人生ではない、別世界を垣間見るようでドキドキしてしまった。当然かなり強烈な作品が多いので、すっきりとした読後感ではない。かろうじて、さわやかな終わり方をした作品もあるが、そこにいたるまでは相変わらず強烈な世界だ。追い詰められた人が行う最後の何か。人生をかけるという切羽詰った雰囲気は、読むものを落ち込ませもするし、変に勇気づけたりもする。
■ストーリー
外国人窃盗団に雇われ、通帳から現金をおろす出し子の男が最後に打った手は(「ラストドロー」)。住宅ローンに押し潰されそうな主婦が選んだ最後の仕事とは(「ラストジョブ」)。リアルで凶暴な世界に、ぎりぎりまで追い詰められた者たちが、最後に反撃する一瞬の閃光を描く。
■感想
冒頭からいきなりラストライドが登場する。借金で追い詰められた男がどのような選択をするかという物語なのだが、非常に落ち込む作品だ。一般人としてはどんな借金苦に落ちいようとも、自己破産さえすれば、きれいさっぱり借金はなくなるものだと思っていた。しかし、人生はそう甘くはなく、それなりの代償がまっていることになる。家族を守るのか、それとも自分を守るのか。ここまで追い込まれた男の決断とは…。まったくの虚構といいながらも、心臓がキリキリと痛む思いがした。自分に置き換えてみると、頭がパニックになり、どのような選択であってもできないような気がした。
極めつけはラストシュートだ。これは読んでみればわかるのだが、正常な心で最後まで読み続けるのは難しい。あまりに残酷で、人間とは思えない行為の数々。作者もあとがきで語っているように、かなり強烈なのは認識しているようだ。本作が象徴するように、ほぼすべての短編が陰鬱な気分にさせる何かがある。物語として非常に読みやすく、頭に入り込みやすいのでよりそう感じるのだろう。作品の中の人生と、今現在の自分を比べて、幸せ加減に喜び、安心すべきなのだろうか。虚構とはわかっていても、その強烈な内容は心の中に残らずにはいられない。
追い詰められた人々が行う最後の行為。鳥肌のたつような恐怖もあれば、目をそむけたくなるような描写もある。強烈な印象に残る数々の場面は気持ちを下げる場合もある。これが最後だと言われると、どうしても身構えてしまう。最後と知らずに行う場合もある。本作の短編に登場するような状況には、おそらくならないとは思うが、最後の何かを行う時が来た場合、はたして自分が正常な感覚でいられるだろうか。そんなことばかり考えてしまった。非常にショッキングで、気持ちが陰鬱となる作品が多数収録されているが、読む価値は十分にある。何かちょっとした心の耐性ができたような気がした。
強烈に印象に残る作品ばかりだ。
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