1ポンドの悲しみ 石田衣良


2009.12.14  アラサー女の恋愛 【1ポンドの悲しみ】

                     
■ヒトコト感想
様々な恋愛パターンを描いた短編集。とりわけ、アラサーを描いた作品が多く、さわやかな中にもどこか重厚な大人の雰囲気がある。若者のライトな恋愛を描いたのではなく、結婚を意識した微妙な心理をサラリと語っている。そのため、ちょっとした隙間時間に読めるような短さとあいまって、深く印象に残ることはないかもしれない。しかし、登場する場面の一つ一つは心の奥底にとどめられ、何かの拍子に出てきそうな気がした。微妙な年齢の女性たちに対して、どのような思いで読むのか。そのスタンスの違いによって、本作の評価も変わってくるだろう。本作を実際にアラサーの女性たちが読んだとき、どういった感想をもつのか。それが一番気になるところだ。

■ストーリー

数百キロ離れて暮らすカップル。久しぶりに再会したふたりは、お互いの存在を確かめ合うように幸せな時間を過ごす。しかしその後には、胸の奥をえぐり取られるような悲しみが待っていた―(表題作)。16歳の年の差に悩む夫婦、禁断の恋に揺れる女性、自分が幸せになれないウエディングプランナー…。迷い、傷つきながらも恋をする女性たちを描いた、10のショートストーリー。

■感想
遠距離恋愛のカップルや、同棲しながらどこかドライな関係を好むカップルまで。さまざまなシチュエーションでアラサーの女性を主人公にした物語が描かれている。アラサーとなれば当然結婚を意識し、付き合う男としても、相手がどう思っているのか気になるところだ。それは、自分が結婚したい、したくないは抜きにして、相手がどう思っているのか知っておく必要があるからだ。微妙な年齢であるだけに、お互いどこか冷めつつも、情熱を忘れてはいない。なんだか、さらりとした読み口の中にも、作者の考える恋愛感というのが如実に現れているような気がした。

他人の幸せのためだけに働くウエディング・プランナー由紀の話は、アラサーならでわの話だろう。これが若者向けの話だったとしたら、もっと華やかな場面と、華やかな出会い。そして、仕事と恋愛の両立を描くことだろう。他人の幸せにかまけて、自分のことをないがしろにする。出会いがないというのは、どの世界でも共通の言葉なのかもしれない。お互いどんな結婚感を持っているのか。本作ではその後がどうなったかはまったく描かれてはいないが、おそらく並大抵のことではないだろう。この出会いから後が一番大変だということを、三十代は理解しているからだ。

本を読む男を好きになる千晶。なんだか、本を読む男というのが、そこまで希少価値だということに少し驚いた。住む世界が違えば、また変わってくるのだろうが、一般的に本を読む男というのは少ないのだろう。女のこだわりを描いた本作。逆に男に何かこの手のこだわりがあるかというと、実は男はほとんどない。性格や見た目の好みはあるが、本を読む女でないと嫌だというほど強烈な主張はしない。そのことからもわかるように、男にとって女と趣味が合えば良いが、合わなくてもそこまで気にしないのだ。本作のようにこだわる女性には出合ったことはないが、心のどこかで何かこだわりを持っているのかもしれない。

非常にサラリと読める短編集だ。




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