ZOO1 乙一


2006.7.11 残酷だが心和む不思議な物語 【ZOO1】

                     
■ヒトコト感想
恐ろしいはずなのになぜか心が和むのはなぜだろうか。残酷で悲惨な物語であるはずが、いつの間にか心温まる作品のような気がしてくる。秘密はその語り口調にあるのかもしれない。いやに丁寧で礼儀正しいような口調。それだけでなく、ばっさりと残酷な部分もオブラートに包むことなく表現している。中には気持ちが悪くなるほどの残酷描写もあるが、それさえも最後の余韻の中では心温まる物語の一部のような気がしてくるから不思議だ。全ての短編がそれなりに驚きと感動を届けてくれるのだが、中でも「SEVEN ROOMS」は読み終わってから一日中、心の中に残ってしまった。

■ストーリー

双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され…(「カザリとヨーコ」)、謎の犯人に拉致監禁された姉と弟がとった脱出のための手段とは?(「SEVEN ROOMS」)など、本書「1」には映画化された5編をセレクト

■感想
「カザリとヨーコ」はなんとなく落ちが読めたような気がした。しかし落ちだけが魅力ではない。ヨーコという健気なキャラクターとその考え方。普通に考えれば理不尽で現実味がないことなのだが、ヨーコというキャラクターの雰囲気がそれを感じさせない。最後の「ヨッシャー」というのは何気ない言葉だが不思議な響きを持つような、理解できない言葉に感じた。

本作の印象をすべてが良いと錯覚させるほどインパクトがあったのが「SEVEN ROOMS」だ。この手の作品であれば常に解決や明確な理由を求めたがる。しかし本作では動機や理由などは一切語られない。あるのは不思議な7つの部屋での出来事だけだ。なんとなく映画のCUBEに近いものがあるのかもしれない。恐怖に満ちた部屋からの脱出。ハラハラドキドキはもちろんのことその自己犠牲精神や犠牲になった者の気持ち。最後の場面を頭に思い浮かべると苦しさやせつなさが激しくわいてきた。

他の全ての作品も予想外の結末で驚かされたり、ある程度想像はついていたのだが、想像以上の結末だったりと切ない気分になる作品が多いのだが、せつなさの中にもどうしようもないブラックさというものも垣間見えている。短編ともなると、どうしても端折らなければならない部分がでてきて、感情移入するほど綿密に描かれない場合がある。しかし本作はキャラクターを細かく描かないかわりに全体の雰囲気を独特なものにしているために不思議と世界に入り込んでしまう。

全てが全て万人向けというわけではないが、今までの乙一作品と比べるとかなり乙一初心者に対する敷居は低いかもしれない。




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