ユリイカ


2007.7.28 この長さが必要だ 【ユリイカ】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
モノトーンの映像と静かな風景、そして長時間。正直最初のころは、最後まで見ることができるか不安だった。しかし、ふたを開けてみると、知らず知らずのうちに物語に入り込み、しっかりと感情移入することができた。九州出身ということもあり、九州弁が心地よく耳に響いた。バスの運転手と幼い兄妹の奇妙な生活は、みていて危ういが、よくわからない安心感もあった。モノトーンのせいか終始暗い雰囲気に感じるが、バス旅行に行くシーンは、ほっとするような暖かい気持ちで見ることができた。

■ストーリー

九州で起きたバス・ジャック事件で、辛くも生き延びたバス運転手・沢井(役所広司)と、乗客の直樹(宮崎将)、梢(宮崎あおい)の姉妹は、2年後に偶然再会したのを機に共同生活を始めるようになる。そこに兄妹の様子を見に来た従兄の秋彦(斉藤陽一郎)が加わり、疑似家族の様相を呈してきた4人は、やがて再びバスに乗って再生の旅に出た…。

■感想
静かな映像と、雑音とは違う生活音が響き渡る作品。バスの音や何かを作る音、そして空気の音。モノトーンの映像と相まって、その効果音が非常に印象的だ。セリフ的にも、しゃべらない兄妹と、ほとんど無口なバスの運転手。いとこ一人だけの声が、なんだか騒がしく感じるが、それもいいアクセントとなっている。この最初から作品全体を覆っている暗い雰囲気は、落ち着きとも取れるが、拒否反応を示す人もいるかもしれない。

三時間半という長丁場の本作。前半は激しい出来事が起こる割には退屈に感じ、逆に中盤から後半にかけては落ち着いて、変化がないはずなのに目が離せなかった。奇妙な共同生活とバス旅行。家族でもない、おかしな関係だが、このバス旅行だけはしゃべらない兄妹に、
明るい笑顔が心の中で宿っているような、そんな雰囲気を感じることができた。作中でも唯一、明るい雰囲気をだしている場面だろう。

全編とおしてセリフはほぼ九州弁。久しく聞かない言葉を聞いて懐かしさを感じた。おそらくこのことも作品の評価に大きな影響を与えているのだろう。意味もなく怒っているように聞こえる言葉。しかし、独特な言葉の中にも、温かみを感じることができるのは、地元の言葉だからだろうか。

この長丁場の作品を飽きさせずに見せることができるのはすばらしいと思う。恐らく、短くしようと思えばできたが、あえてしなかったのだろう。この作品の長さ自体が、陰惨な事件から生き残った三人の心の奥底を表現するのに必要だったのだろう。しかし、心が病んでいるときに見ると、さらに病む可能性もある。そんな危険性を含んだ作品だ。



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