ゆれる


2008.3.15 表情がすべてを語る 【ゆれる】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
人は表情だけで、これほど心情を語れるものなのだろうか。田舎で慎ましやかに生活する兄と東京で派手な生活をおくる弟。二人が何気なく語る場面と、法廷で弟が衝撃的な告白をした場面。この二つの場面での兄弟の表情は、セリフをヒトコトも話さずともすべてを表情から理解することができた。もちろんそれは役者の力もあるのだろうが、そこに至るまでの過程でしっかりと伏線が張られており、もうここしかないという絶妙のタイミングで繰り出される衝撃だ。画面全体からはゆっくりとした時間の流れを感じることができるが、内容は非常にハードだ。出演している役者が素晴らしいのと、脚本の絶妙さで、いったん見始めると最後まで目が離せない作品だ。

■ストーリー

弟は故郷を離れ、東京でカメラマンとして成功。一方、兄・稔は実家のガソリンスタンドを継いでいる。母の一周忌に帰った猛だが、稔、幼なじみの智恵子と出かけた渓谷で、智恵子が吊り橋から転落死してしまう。殺人容疑をかけられた兄と、彼の無実を信じる弟の関係が、ときにスリリングに、ときに不可解に、さらに衝撃と感動を行き来し、タイトルが示すように“ゆれながら”展開する骨太なドラマ

■感想
つきつめれば藪の中的な話であることは間違いない。ただ、そこでの証言者が身内であるということ、そして、虐げられた存在である兄が容疑者であるということ。田舎独特の都会人に対する意味のない嫉妬が含まれた視線や、周りの人々の考え方。多少誇張されてはいるが、おおむね間違いはないだろう。なんだか、本作を見ていると、無性に祖母の家を思い出してしまった。東京人というだけでへんなコンプレックスを持つあたりは、非常に田舎にありがちな考え方なのだろう。

最後には物語の真相が明らかになるのだが、いったい兄はどの程度まで知っていたのだろうか。朴訥で純粋、そして弟に奪われ続けた兄の立場は、兄弟の父親とその兄に対しても同じことが言えるのだろう。ゆれるというタイトルが、つり橋がゆれるということはもちろん、兄弟間での気持ちのゆれ具合から、弟の心理的な不安定さを露呈するような素晴らしいタイトルだと思う。山深い小さな町での出来事のはずが、一瞬、まるで邪悪に満ち溢れた都会の裏側にいるような感覚にさえ思えてきた。

のんびりとした田舎の風景と反比例するように物語はものすごいスピードで展開していく、その間には兄である男は心に異常をきたしてしまったのかと思うと、とたんに正常に見える。この変わり身の早さは意図的なのだろうが、観衆を引き付けるには十分すぎるほど効果的だ。無表情の中にも、裏があるような顔に見えたかと思えば、それは純粋さゆえの表情にも見えたりする。よくこんな複雑な表情ができるものだと感心を通り越して驚きの方が強かった。

画面からあふれ出る不安定な感情をものすごく感じてしまう。



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