2007.4.24 重松清っぽくない 【四十回のまばたき】
■ヒトコト感想
今までの重松清作品であれば、いじめやニュータウンの悲壮感など、どこにでもあるありふれた事柄を作者の鋭い目を通して描いていた。その印象からすると本作はまったく別人の作品と言われてもそのまま信じてしまうほど、読み終わった印象が今までとはまったく異なっている。意図的なのかわからないが、どこか村上春樹風でもある。作中に登場する多数の料理、そして主人公がイマイチぱっとしない翻訳家。文体は違えど雰囲気はなんとなく近いものを感じてしまった。村上春樹ほど無意味だったり、ぼんやりとした時間の流れを感じることはないが、それでもゆっくりとした雰囲気を味わうことができる。それはおそらく作中に作者の作品では今までにないほど料理の描写がでてくるからだろう。
■ストーリー
結婚七年目の売れない翻訳家圭司は、事故で妻を亡くし、寒くなると「冬眠」する奇病を持つ義妹耀子と冬を越すことになる。多数の男と関係してきた彼女は妊娠していて、圭司を父親に指名する。妻の不貞も知り彼は混乱するが粗野なアメリカ人作家と出会い、その乱暴だが温かい言動に解き放たれてゆく
■感想
「冬眠」するという義妹。そして義妹と家族同様に接する主人公。主人公以外の人物はそれなりに感情の起伏が激しいが、主人公だけがロボットのように冷静な印象を受ける。実はこの主人公の性格や周りから言われる言葉「無人島に一人でいても生活できそう」というのは僕自身も言われたことがある。自分ひとりで何でもできてしまうことが、まるで悪いことかのように感じるこの言葉。確かに感情の起伏はそれほど激しくはないが、それを否定されているようにも感じる。主人公の苦悩を身近なものに感じた。
自分が思っているほど相手のことを実はよくわかっていない。これは良くあることで、本作の圭司夫婦もそうだったのだろう。妻が死んでも涙がでない理由はそのせいではないが、どこか心の中に穴が開いたようになると、まったく涙がでないというのは分かる気がする。自分の周りの環境のめまぐるしい変化。たぶん圭司のような男は、自分の生活のペースが乱れることがホントは何よりもいやなはずだ。現に僕がそうだから。
結末間近にはちょっとしたオチのようなものまでついている。さまざまな登場人物たちとのふれあいの中でこの圭司はどのような結論にいたったのか。子供が生まれてから自分の平坦な感情を修正しようとしたのだろうか。後日談的なものは書かれておらず、その後の生活がどうなったかは想像するしかない。しかしいなかったものが新たに増えると生活は大きく変わるはずだ。ましてそれが赤ん坊であればなおさらだ。生活は乱され、ペースはグズグズになるが、おそらく圭司はそれを受け入れることができるのだろう。
なんとなく、結婚間近でマリッジブルーになった男の心境を表しているようにも感じてしまった。
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